居場所をください。



「"辛くなったら手を伸ばして

僕が必ず包み込むから

僕はいつだって君の味方だから"」


強く繋がれた手から

沖野さんの力強さが伝わってきて

"泣かないで"

そう伝わってきている気がして

私はもう、泣かずにはいられなかった。


これが最後だから。

ずっと沖野さんに支えられて

デビューの日、生放送でガチガチだった私に

声をかけてくれたのも沖野さんで

私がピンチの時にはいつも沖野さんがいて

いつも私を励ましてくれたのに

歌手として、ステージに立つのはこれが最後。


だから笑顔で送り出さなきゃ

そう思うのに

そう思えば思うほど

私の目から涙が溢れてしまって

私はもう、歌うことができなかった。


かと思うと、急に曲がとまった。

あと一節でこの曲は終わってしまう

そう思ったら、曲がとまった。


かと思うと、沖野さんは手を離し

自分のイヤモニを外した

かと思えば、私の片方のイヤモニも外した。


『みんな、笑って~!』


そう叫ぶ沖野さんの目からも涙が流れていて

それでも沖野さんは笑っていて

それを見て、私も涙を拭いた。


私が書いた歌詞じゃないか。


「"だからどうかその笑顔を

奪わないでいて"」


最後は丁寧に丁寧に

沖野さんと目を合わせて、

アカペラなまま、音を重ねた。


会場の声を聴きながら

沖野さんの声を聴きながら……


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