居場所をください。



「帰ろう。」


そういって沖野さんに近づいたのは

マネージャーさんではなく、

かっこいい、大人の男性だった。


「……うん。」


涙を流した沖野さんは

その人に支えながら

私のもとへと来た。


「…次は、私が応援する番だね。

一人の歌手とファン、

遠そうで近い距離だから

私はさようならなんて言わないからね?」


そういう沖野さんは

また少しだけ笑って、私を抱き締めた。


「ありがとね、応援してくれて。」


同じステージに立つ立場

決してファンとしてここにいるわけではないのに


「……これからもずっと、

沖野さんの歌を聴き続けます。

本当にありがとうございました。

歌手として、10年間頑張ってくれて」


私の見てきた沖野さんは

いつも完璧なくらい、アーティストだったから。


「……永遠なんてないと思ってたけど

永遠は私が作ります。

私が沖野さんの歌を永遠にする。

だから、安心して引退してください。」


だから最後まで、

歌手としての沖野さんを

送り出したかった。


「……ありがとう。

次会うときは友達として

食事とか行ってくれる?」


「もちろんですよ。

だって私、友達全然いませんから。」


「……じゃあ、次会うときは

その敬語もなしでね。

先輩後輩じゃなくなるんだから。

……じゃーね。お疲れさま。」


沖野さんはそういって、

かわいく微笑んで、ステージを降りた。


「…お疲れさまでした!」



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