居場所をください。



「……美鈴ちゃん、本当に変わったね。」


「え?なにが?」


「なんかめっちゃママになった。
あんなに不安がってたのに。」


「はは、そうだね。ほんとだよ。
…なんかねー、まだ妊婦だった頃は母親になるって漠然としててどうすればいいのかわかんなかったし、そもそも自覚もなかったのかも。
貴也と結婚したときもいい奥さんになれるかなとか不安にもなったし。
でもねぇ、朝陽が生まれていろいろ変わったんだよね。

妊娠したってわかったとき、すでにもう朝陽のことは大事だったんだけど
朝陽を産んで、朝陽を初めて見たとき、頭空っぽだったのに涙が止まらなかったんだ。
なんでかわからないけど、悲しくもないのにまだ実感もなかったのに涙がどうしても止まらなくて。

でも朝陽を抱いて、授乳して、おむつ変えて、夜寝る時間も減って
泣いてすごい大変なときもあるんだけど、この子には私と貴也しかいないんだなって思ったらさ
幸せにしなきゃっていう使命感がなくなったんだ。」


「え、なんで?」


「だって、家族がいる幸せを私が誰よりも知ってるから。」


そうやって優しく笑う美鈴ちゃんの目は、やっぱり昔のままで…


「私と貴也が朝陽の傍にいたいって、そう思ってればきっと朝陽は寂しくないかなって。
きっと朝陽もいつかそんな当たり前の幸せに気づくときがくるから。
きっと、私も貴也も仕事のことで朝陽に寂しい思いをさせることもあると思うけどさ。

私と貴也が気づけたようにね。」


「……そっか。
やっぱなんにも変わってないねー。」


「はは、そうだね。変わんないかも。
でも変わんなくてもいいと思ってる。

昔があったから、朝陽には絶対に帰る場所を奪わない。
どんだけ私と貴也が忙しくなっちゃっても私と貴也が帰る場所は朝陽のとこ。

きっとそれは何年も変わらないだろうね。」


そう語る美鈴ちゃんは幸せそうで

本当に幸せそうで


素直に、羨ましくなった。




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