居場所をください。
真相はわからないけど、笑顔でなぜかカメラに手を振る美鈴を見ると
やっぱこれは俺宛なのかも、なんて思えてくる。
『テレビ見てね』なんて言って仕事いくこと、ないもんな……
そしてそんなママに手を振り返す子供たち。
……動画でも撮っときゃよかった。
そして明るめの音楽が止まると、笑顔のまま観客に頭を下げ、
顔が上がれば今度は真剣な顔をした。
そして、短めのピアノ伴奏のあと
『どうして生まれてきたの
答えのない問題抱えて
これまで生きてきたんだ』
切なそうな声で、そう歌い始めた。
『どうして私だけって
責める言葉を投げつけることもできず
ここまで生きてきたんだ
そう その答えはあなただけが
知ってたはず』
タイトルはmother。
きっとこれを聴いてる誰もがわかってる。
これは、美鈴を捨てた美鈴の母親へ宛てた歌だ。
『逢いたい 逢いたい 逢いたい
どれだけ心の中で叫んだだろう
私はこれまでもこれからも
あなたの姿を探し続ける』
逢いたいと叫ぶ美鈴の歌声が切なくて痛くて
テレビを見てるこっちまでもが
痛くて泣きそうなくらい
『どうしてひとりにしたの
その答えはひとりにさせないため
それがやっとわかったよ』
なのに、2番の歌詞は切なさなんかなくて
暖かくて優しい声だった。
『どうして私だけって
勝手に決めつけていたのかな
みんな同じなのにね
そう 私にはいつだって
家族がいた』
優しい優しい顔をした美鈴が、観客を見ながら
また、サビへと入っていく
『逢いたい 逢いたい 逢いたい
そう願う先はもうあなただけじゃない
いつだって駆けつけてくれる人
そして大切な私の家族』
ずっと観客目線だった美鈴が、突然カメラ目線になって
俺たちを見た。俺たち家族を見た。
もしかしたらテレビの向こうのファンに向けたのかもしれないけど
俺だけはそう感じてもいいよな
『今なら私にもわかるよ
あなたが私を愛してること
だって私にも今では
愛する人ができたから
どうしたら幸せにできるかな
どうしたら寂しくないのかな
その問題の答えはやっぱり
ひとりにさせないことだった』
そう歌えば美鈴は今度は上を見た。
スタジオの上なんてライトとかしかないんだけど、きっと美鈴はそんなの関係なく、上を見たかったんだ
『逢いたい 逢いたい 逢いたい
どれだけ心の中で叫んだだろう
私はこれまでもこれからも
あなたの姿を探し続ける
逢いたい 逢いたい 逢いたい
逢ってその手で抱き締めてよ
一言でいい あなたから聞かせて
今でも私を愛してるって
もうなにも望まない
あなたの声が聞きたいの
たった一度でいいから
今でも私を愛してるって』
最後の最後で、美鈴はやっぱり苦しい顔をして
悲痛の叫びを空へと届ける。
今まで一度も言葉にしてこなかったことをテレビで叫び、伝える。
こんなに悲しい顔で叫んでたら、きっと美鈴の母親も心配で見てくれてるよな。
『━━Dear mother.
私も母になりました━━』
最後、小さくかすれた…だけど、確かに歌う美鈴の声をきっと母親も聴いててくれと
俺までがそう願うほど