僕は決して姉の彼氏を認めない!!!
僕の姉に彼氏ができるわけがない
「歩、ご飯中よ、本読むの後にしなさい。」
僕の姉、高橋歩は小さい頃から少し変わっていた。白い肌に、ぽってり一重、手足はすらっと細長い、人間関係の構築方法を生まれてくるときにどこかに落としてきたような人だった。
注意された歩は少しも不機嫌な表情を見せず、母親に従った。
元来素直すぎる性格なので、人に嫌われると言うよりは、全く喋らないが故の『空気』というポジションについていた。
そんな姉とは裏腹に、僕、高橋淳はモテた。
決して、自己陶酔や自信家と言うわけではない。
本当にモテたのだ。
母親譲りのぱっちり二重、父親譲りのがっしりとした体躯。
高校生にとってスポーツができて面白い奴は大概モテた。
僕はその両方とも持っていた。
「淳、歩、ちょっとどいて」
母が両手に料理を抱えて、食卓についた。いつも四人で食べるには多すぎる量が並ぶ訳は、僕と姉が食べ盛りだからというわけではない。母のストレス発散の一つだ。
今日も父さんは遅いのか。
僕と姉との間に重苦しい空気が流れた。
僕らはやたらと手が込んだ料理を黙々と口にしながら、母のいつもの『お父さんみたいになっちゃダメ』を聞き、学校のことを訪ねてくる母にいつも通り
「楽しかったよ、部活もまぁまぁ」
「今度レギュラー取れそう」
などと当たり障りない答えを返していた。
「歩はどうなの」
母は友達のいない姉を少し恥じているようだった。
それ故いつも答えに詰まる。
しかし、今日は姉が箸を少し止め、ちょこんと首を傾げながらさらっと
「彼氏ができた。」
と発言した。
僕は箸の先に挟まっていた好物、母特製のキュウリのぬか漬けを落としてしまった。
姉、高校二年生、僕高校一年夏の出来事だった。
僕はこの時のとこを一生忘れないだろう。
真っ白な頬をピンクに染め、母は、嬉しそうな顔でまぁまぁまぁ!と色めきだった。
「どんな人なの?学校の人?」
すっかりいつもの食卓は、消え去り賑やかになった。
姉はカサカサの唇に手を当てて、少し考えながら
「部活の先輩、すっごく優しいんだよ」
なんて答えながらはにかんでいた。
いつもは良く目にする姉の唇を噛む癖も今日は少し色っぽく見えた。
我が家の女たちのテンションが上がる一方で、僕のテンションは沈んでいった。
姉に彼氏?この時湧いてきた感情が僕にはわからなかったが、いい気分ではなかった。
そんな僕をよそに、母と姉の会話は続いていく。
いい気分ではなかったが、姉の一言はこの家に住み着く『お父さんみたいになっちゃダメ』と言う名の亡霊を吹き飛ばした。
「部活って文芸部の?美術部の?」
「文芸部。」
姉は母と会話が続くことが嬉しいのか、いつもよりも食い気味に話している。
いつもはさっさと飯食って、部屋にこもって読書するくせに。
「あら、なんて名前なの?かっこいい?」
母はまるで女子高生のようだ。
これよ!こんな会話を娘としたかったのー!
と全身で叫んでいた。
面白くない、面白くない。
姉に普通の彼氏ができるわけがない。
騙されてやがる。
「斎藤圭哉 先輩。3年生で頭いいんだよ。」
「まぁー!いいわぁ!文学少年ってやつね!今度家に連れて来なさいよ」
「まだ早いよー」
姉はそう言いながらも嬉しそうだ。
斎藤圭哉って勉強もできる、顔もいい正統派優等生イケメンじゃないか…
おかしい。絶対おかしい。
目を覚まさせてやる。姉さん。
ガタン!
僕は早めに食事をかきこんで「ごちそうさま」と一言残し部屋に戻った。
明日に備えて今日は早く眠ろう。
姉と母は心配そうに
「もう寝るの?」
と言ってきた。
「うん、もう少しでテストだからね早めに部屋で勉強するよ」
「そう、淳君は真面目ね」
「おやすみ母さん」
そう言って部屋に戻った。