わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「そっか」

 わたしは可愛い反応を示す彼女を見て、目を細めた。

 彼女はオレンジジュースを飲みほした。

「お土産見に行こうか。陸人から何でもいいから買ってきてと言われているから」

「そうだね。わたしも家に買おうかな。あと、職場にも買ったほうがいいかな」

 そう口にしたわたしは彼に会う口実を思いついた。お土産と言えば、彼に会おうと言っても不自然じゃない。この前ごちそうをしてもらったお礼だと言ってしまえばいいのに。

「みんな知ってるからね。何か買おうか」

 立ち上がった仁美の後を追い、わたしは旅館の売店へと足を進めた。


 売店にはちらほらと人の姿があった。クッキーや煎餅といったものや、ストラップなどのアクセサリも売っていた。

 両親へと職場へは何を買うかあっさりと決まった。だが、問題は岡本さんに何を買うかだ。

 あまり豪勢なものは避けたい。彼が気にして何かお返しをしなければいけないと考えてはいけないためだ。

 わたしは千円に満たない小さなクッキーを手に取った。これくらいなら彼もすんなりと受け取ってくれるだろう。

「友達にでも買うの?」

 お土産のお菓子の包みを七個抱えた仁美がわたしに問いかけてきた。
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