わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 わたしの手が温まる前にコーヒーが届き、ほっと胸をなでおろした。

 それに口をつけたとき、お店の扉が開いた。黒いコートを来た、長身の男性が入ってきた。彼は店内を見渡し、わたしと目が合うと会釈した。寄ってきた店員に声をかけると、わたしのところまでやってきた。

「遅くなってごめん。ちょっとトラブルがあって」

「いいの。気にしないで。でも、早かったね」

「この前まで送ってもらったから」

 彼は店の窓ガラスを指さした。

 どの車かは分からないが、誰かに送ってもらったのだろう。

 彼はコートを脱ぐと、イスに腰掛けた。そして、水を持ってきた店員にコーヒーを注文していた。

「あの、これなんだけど」

 わたしはお土産の入った袋を彼に手渡した。そのとき、彼の手と接触した。

 わたしよりもはるかに体温の高い手だったことに、胸を高鳴らせた。

「ごめんなさい」

 彼を見やるが、彼は怪訝な表情を浮かべていた。

 そんなに嫌だったんだろうか。

 落ち込みかけたわたしからお土産を受け取ると、その手をぎゅっと握りしめた。
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