わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「今までどこに」

「店の中」

 そう言い、わたしは我に返った。そう。わたしはほんの五分ほど前まで店の近くに立っていたのだ。まだわたしの手はひんやりと冷え切っていた。

「早めに来てしまって、それでしばらく店の外にいたの」

「本当にごめん。もっと早く連絡が取れればよかったんだけど、余裕がなくて」

 彼は苦痛にゆがめた。

「いいの。すぐに温まるし、急に呼び出したのはわたしだもの」

「悪かった」

「気にしないでね」

 そのとき、彼のところにコーヒーが届いた。彼はわたしのお土産を鞄にしまった。

「高橋さんと行ったんだっけ?」

「そうだよ」

 仁美と行ったことは、事後報告になるが彼には今日のメールで伝えていたのだ。

 彼の視線が外に向かう。外はいつの間にか、大雪が降っていて、十分に見渡せなくなっていた。

「傘、持っている?」

「持ってないけど、近いから大丈夫。それより岡本さんのほうが遠いよね」
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