わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「俺は大丈夫」

 彼はそう明るく言い放った。だが、わたしはその彼の表情に違和感を覚えた。

 そういえば、さっきの手もそうだ。

 わたしが外にいて冷えていただけとも考えられなくもない。だが、彼の手が妙に熱い気がした。

「ごめんね」

 わたしは断ると、彼の額に手を当てた。そのあと、自分の額に手を当てた。

 心なしか、やはり熱い気がした。

「熱、あるんじゃないの?」

「そんなこと」

 そう言いかけた彼が口ごもった。

「少なくともだるいんだよね。言ってくれればよかったのに」

「ほのかさんに会いたかったから」

 彼はそう暗い声で返答した。

 彼の気持ちは嬉しいが、だからといって無理をさせるわけにはいかない。

「今日は帰ろうか。無理したらだめだよ。明日も仕事でしょう」

 彼はわたしの提案に首を縦に振った。

 わたしたちはコーヒーを飲むと、お店を後にすることにした。

 まだ雪は辺りを白く染め上げていた。

 おそらく体調が悪いのを知って、誰かが彼を送ろうとしてくれたんだろう。こんなときに彼を誘わなければよかった。
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