わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 そのとき、クラクションが響いた。わたしが顔をあげると、わたしのお父さんと同じくらいの年と思しき男性がこちらを見て手を振っていた。

 岡本さんはちらりとその車に視線を送った。

「池田さん」

 池田って確か。わたしはあの税理士事務所の看板を思い出していた。彼が働いているのが池田税理士事務所。要はあの事務所の所長か、その身内なのだろう。
 わたしは彼と一緒にその車のところまで行く。

「乗って。君も一緒に送るよ」

 わたしは岡本さんと一緒に車に乗ることにした。

「君の家は」
「先に岡本さんを送ってあげてください。わたしは後からでいいので」

 彼の話を聞く限り、悪い人とは思えなかった。わたしが見た印象もそうだ。

「遠回りになってしまうかもしれないけど」
「僕は構わないよ。先にこいつを家まで送ろうか」

 彼の視線が岡本さんに移る。

「やっぱり無理をするな、と言ったのに。彼女に移したらどうするつもりだったんだ」

「反省してます」

 岡本さんはそう言うと、肩を落とした。
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