わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「わたしが持っていきます」

「助かるよ。ありがとう」

 彼はわたしが降りるのを待ち、自動車の扉をロックした。その足で門を開け、玄関まで行く。彼は岡本さんのポケットからキーケースを取りだすと、鍵を開けていた。岡本さんは池田さんに「すみません」と謝っていた。

 彼は玄関先に岡本さんを座らせると、わたしに中に入るように促した。

「ちょっと待っていて」

 彼はそういうと家の中に入った。

 彼の家は趣のある木造建築の一戸建てだ。恐らく、祖父母が亡くなってからここに一人で住んでいるのだろう。

「本当にごめん。池田さんからは断ったほうがいいと言われてたのに」

「わたしは平気。でも、はやくよくなるといいね」

 そのとき、池田さんが戻ってきた。

「お前は部屋に戻っていろ。何か食べるか?」

 岡本さんは首を横に振った。

 池田さんと岡本さんはそのまま奥の部屋に消えて行った。わたしは玄関で池田さんが戻ってくるのを待つことにした。




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