わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「玄関は寒いから、居間ででも待っておいて。暖房つけていいから」

「分かりました」

 玄関で待っておいてもよかったが、寒い中外にいたのと、玄関でずっと待っていたからだろうか。わたしの体もすっかり冷え切ってしまっていた。

 わたしは言葉に甘えて居間に行く。

 畳のある部屋にストーブとヒーターがある。

 彼がこういう純和風の家に住んでいるのはなんとなく意外だった。わたしはヒーターのスイッチを入れた。

 あまり部屋の中を見渡さないようにしないといけない。そう思ってはいたが、わたしの視界はある一点で釘づけになった。戸棚の上に置いてある写真が目にはいったからだ。

 そこには家族写真が飾られていた。彼の少年のころ。年配の男女の写真。彼のお母さんと思しき、きれいな女性の姿もあった。だが、一つだけ写真たてがひっくり返っているのに気付いた。倒れたのに気付かなかったんだろうか。

 写真楯は誰かからの手作りの贈り物なのか、聖へと掘ってあった。

 もとに戻そうとしたわたしはその写真を見て、固まってた。そこに映っていたのは小学生くらいの少年ともう一人、中学生くらいの大人びた少年。わたしはその大人びた少年を知っていた。彼は雄太だったのだ。まだあどけなさは残っているが、一年間慣れ親しんだ顔だ。見間違うわけもない。
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