わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「気にしないで。こちらこそ聖と会ってくれてありがとう。あいつ、今日、体調悪かったのにも関わらずすごく嬉しそうにしていたんだ。本当、正直なやつだから」

 わたしはその言葉が嬉しかった。同時に胸を抉った。

 やはり疑念のまま胸にしまっておいたらいけない。きっとわたしも、雄太も、そして岡本さんも傷つけてしまうことになる。

「はい。また、誘います」

 わたしはドアを締めると、池田さんを見送った。

 岡本さんがわたしを知らなくてもおかしくない。わたしは岡本さんと会う前に、家に帰ることにしたのだから。

 家の中に入るとリビングでくつろいでいる両親にあいさつをして、部屋に入った。
 いつもは特別寒い日は暖を取り部屋に戻るが、今日はそんな余裕もない。

 寒い部屋の中で暖房を入れると電話をした。ここ一年一番かけた、けれどこの数か月はほとんどかけなかった番号に。

 取ってくれないかもしれない。そんな不安はニコール目で打ち消された。だが、同時に心拍数があがった。

「久しぶりだね。ほのかだけど」

 わたしは心を落ち着かせるために、発声練習をするかのように言い放った。
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