わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 家の中に入ると、ひんやりとした空気が漂っていた。

 彼は靴を脱ぎ、中に入ろうとするが、わたしはどことなく躊躇してしまっていた。
 思ったより手足がぬれてしまったからだ。

「気にしなくていいのに。タオルを持ってくるよ」

 そう言うと彼は家の中に入り、タオルを持ってきてくれた。

 わたしはそのタオルで髪や手についた雨を拭った。

「居間はあそこだから。俺は先に暖房をつけてくるよ」

 彼はそういうと、居間に消えていった。わたしは手足を拭うと、靴を脱ぎ、彼の後を追うようにしてリビングに入った。ストーブと暖房に電源が入っていたため、わたしは引き戸を引いた。

「寒いと思うけど、悪いな」

「わたしが来たいと言ったんだもん。何か懐かしいね」

 彼の家に来たのは、彼が熱を出して以来だ。わたしは部屋の中を見渡した。真っ先に目が向いたのはあの写真だった。その中で雄太と映っていた写真がなくなっているような気がした。以前も伏せられていたため、見えない場所に置いてある可能性はあるのだけれど。
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