わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「そうじゃないよ。気になっただけだから」

 わたしは一応否定しておいた。彼にとって彼女は妹のような存在だと分かっていたためだ。家族を失った彼から、それさえも奪うのは酷すぎた。きっと彼女は彼がわたしと付き合うようになったら、その枠を決して超えようとしないだろう。

「ほのかさんの家って、両親は厳しい?」

「厳しいような、そうでもないような。でも、歳も歳だし、話せばわかってくれることも多いと思うよ」

「もう少し、暖かくなったら旅行に行かない? 日帰りで遠出してもいいし」

 わたしはその提案に驚いて彼を見た。

 今まで食事や、週末のちょっとしたデートに誘ってくれることはあったが、そうしたものに誘ってくれるのは初めてだった。

「すぐに決めなくてもいいから、考えておいて」

「分かった」

 日帰りならともかく、泊まりの場合はどうしたらいいだろう。両親に正直に語れば、いざというときにまた嫌な話をしないといけなくなる。

 そのとき、わたしの体に影がかかった。
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