わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 彼がわたしの傍に立っていたのだ。

 彼はわたしの手にしていたタオルを受け取ると、わたしの額を拭った。

「まだ濡れているよ。風邪ひいたらいけないから」

「ありがとう」

 だが、彼の目はわたしからそれない。彼は澄んだ瞳にわたしをとらえたままだ。

 彼のタオルを持っていないほうの手がわたしの頬をなぞった。わたしは胸を高鳴らせ、彼を見た。

 彼の顔が近づいてきて、わたしは目を閉じた。

 わたしの唇に、彼の唇が振れた。

 少し時間をおいて目を開けると、顔を赤く染めた彼の姿があった。
 彼はわたしから顔を背け、自らの口元を抑えていた。

「つい。ごめん」

「謝らないでよ。嫌だったらしないし、そもそも聖とは付き合わないでしょう」

「本当は、嫌われるんじゃないかなとずっと思っていたんだ。まだ早すぎるかなとか」

「そんなこと全くないよ」

 わたしは彼を見て、思わず笑ってしまった。付き合い始めて今まで、彼は手を握るくらいしかしなかったからだ。そんな反応をする彼を見て、新鮮な気持ちを味わっていた。同時に彼がどこまでわたしを思ってくれているのか、身に染みて実感していた。


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