わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「ごめんね。お母さんが帰ってきたら、すぐに帰るから」

「気にしなくていいよ。ほのかとも顔見知りなんだし」

 茉優さんと聖が一緒に居間に入ってきた。彼女は会釈をすると、ソファに腰を下ろした。そして、わたしとは目を合わせようとはしなかった。わたしも彼女にどう声をかけていいのか分からなかった。

「飲み物を入れるよ。紅茶でいい?」

 聖の言葉にわたしも茉優さんも頷き、聖は手を一度居間を出て行った。

 わたしと茉優さんが残されたリビングに言いようのない沈黙が訪れた。何かを言わなければいけないと思っても、わたしの意思に反するように言葉が出てこなかった。

 わたしと彼女が言葉を交わす前に、聖が戻ってきた。

 彼は台所でお湯を水を出すと、やかんを洗っているようだ。

 茉優さんはそんな彼のところにすっと歩み寄った。

「わたしがやるから、聖はほのかさんのところに行けば?」

「いいよ。これくらい。俺でもできるし」

 彼女なりにわたしとの気まずい時間を紛らわそうとしたのだろうか。だが、聖の前では無駄なものへと化していた。
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