わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 もっともそう思えたのは本当に最近だったけど。今から思うと、結婚という道を選ばなくてよかったのかもしれない。結婚話が進めば、当然忙しくなる。仁美もあの仕事を振ってくれなかっただろうし、わたしも自分のことを今のように真剣には考えなかったと思う。

「そう思えるのはいいですね。わたし、もともと理科系が好きで理学部に通っていて、法科大学院を受けようかなと考えているんです。親はわたしがやりたいなら反対しない、と」

「そうなの?」

 わたしは彼女の多才さに驚いていた。それでいて、あんなにセンスがいいなんて。わたしよりもデザイン関係の才能はありそうなのに。仁美も茉優さんを絶賛していたのだ。

「もうあまり時間もないんですけどね」

 時間がない。その意味合いが分かっていたのにも関わらず、わたしはドキッとしていた。まるで聖とわたしとの時間がないと言われたみたいな気がしたためだ。

 そのとき香ばしい薫りとともに、聖がわたしたちのところまで来た。

 彼は紅茶をテーブルに並べると、わたしの隣に腰掛けた。
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