わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 翌日の夜にわたしの電話が鳴った。発信者は雄太だ。

 わたしは深呼吸をすると、電話を取った。

「どうしてほのかが聖と一緒にいるんだよ」

 彼は久しぶりと言葉を交わすと、すぐに話を切り出してきた。

「いや。悪い。急にそんなことを言っても事情が呑み込めないよな。あいつは、苗字は違うけど、俺の弟なんだ」

 彼は事情を説明するかのように、苦々しい口調で言葉を漏らした。

 冷えていく気持ちを抑えながら、天井を仰いだ。

 わたしは具体的に雄太に聖のことを聞いていない。ここで彼の婚約破棄のせいだと言い逃れもできる。

 だが、茉優さんのまっすぐな思いに触れた今となっては、それはできなかった。

「やっぱりそうだったんだね。わたしは聖と付き合っているの」

 電話口から驚きの声が漏れた。

「やっぽりと気付いていたのか?」

 わたしは首を縦に振り、気付いていたと返事をした。

「何を考えているんだよ。知らなかったならともかく、俺の弟と分かっていて付き合うなんて」

「分かっているよ。でも、好きになっちゃったんだもの。あなたが幼馴染を選んだように。わたしだって」

 ずるいとは分かっていた。だが、わたしも責められるだけではなく弁解したかったのだ。

 決して軽い気持ちで彼と付き合い始めたわけじゃない。わたしだって、悩んだのだ。

 この関係は長続きしないし、永遠ではない想いだ、と。
< 169 / 208 >

この作品をシェア

pagetop