わたしは元婚約者の弟に恋をしました
わたしは電話を切ると、手元に会ったクッションを抱き寄せた。
もう後戻りはできなかった。
最初から聖と一緒にいようなんて考えなければよかった。
そうしたら彼にとっての憧れの先輩ですんだのに。
聖の番号を表示するが、すぐに電話を床に置いた。こういう話は直接したほうがいいに決まっていた。
だが、そのタイミングを見計らったかのように、すぐに携帯が音を奏でた。
発信者は聖だった。
わたしは深呼吸をして、電話を取ることにした。
「昨日、元気がなさそうだったから。何かあった?」
わたしは一瞬、返事に詰まる。ここで彼に別れ話を出してしまえば、全て片が付く。
別れようか。
理由は仕事が忙しいから。
他に好きな人ができたじゃ、あんまりすぎる。
きっとこれは神様がくれたわたしに罪滅ぼしをするチャンスなのだ、と。
「なんでもない。お腹が空いていただけなんだ」
そう心で繰り返したのに出てきたのは本当に意味のない言葉だ。
「そっか。よかった」
聖は安心したような声を出した。
「今は大丈夫?」
「大丈夫」
それからわたしは聖と他愛ない会話を交わしていた。その途中、何度も雄太の言葉が心の中で響くが、わたしは雄太に何も言い出すことができなかった。