わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 振ったのに泣いて被害者ぶるのはどうにかしている。

 わたしは悪人にならなければならないのだ。

 そのとき、ふっとわたしの脳裏にある考えが過ぎった。悪魔の囁きのような、今まで考えもしなかったこと。きっと最後の悪あがきというものなのだろう。

 だが、わたしと聖が一生一緒にいられる唯一の方法だ。聖がわたしを好きなら、きっとわたしの意見に同意してくれる。

「聖はわたしのことが好きなんでしょう。だったらお兄さんとの縁を切れないの? 母親が違って一緒に住んでいないなんて他人同然じゃない」

「それはできないよ。ごめん。ほのかさんがそうしたいなら、そうしてもいいよ」

 彼は実の兄よりもわたしとの別れを選択したのだ。

 彼の気持ちを測ったことで、心がほんの少しだけ楽になった。だが、同時に心に重石がのしかかった。

 彼の気持ちもその程度だったのだ、と。

「そうしよう。じゃあね」

 淡々と言葉を発したことに安堵して、踵を返し去っていった。

 後悔の念をどれほど抱いても、時間をまきもどすことさえできなかった。

 もし、わたしと聖がもっと早くに出会っていたら、今の結果は変わったのだろうか。

 わたしにはその答えがわからなかった。
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