わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 わたしは真新しいマンションの前に来ると、深呼吸をした。そして、インターフォンを押す。
 すぐに雄太の声が聞こえ、彼が玄関まで出てきた。

 春奈さんとの挙式を来週に控えた彼は、もう新居に引っ越しをしていて、実家でもわたしが通いなれた彼の家でもない、別のマンションへと引っ越していた。

「あがって」

 わたしは客人として訪れたが、そこには笑みがなかった。
 それも当然だろう。

 弟の前から去ったという元婚約者が、弟の件で会いたいと電話をしてきたのだ。

「春奈さんは?」

「今、出てもらっているよ。さすがに気まずいだろう」

「そうだね」

 もう過去のことではあるが、やはりあのときのショックは体に刻み込まれていた。

「聖のことって。もうあいつからも別れたとは聞いたけど」

「わたし、やっぱり聖と付き合いたいと思っている」

 彼は顔を強張らせた。思いのほか驚いているように見えなかったのは、彼自身、何らかの覚悟をしていたのかもしれない。

「君はあいつに言うつもりなのか? あなたのお兄さんと付き合っていました、と」
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