わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「幸せにね」

 一年前は絶対に言えないような言葉がするりと出てきた。彼の目の輝きました気がしたが、わたしはそのまま深々と頭を下げると、彼の家を後にした。


 マンションの外に出たとき、声をかけられた。振り返ると春奈という女性が立っていたのだ。彼女は深々と頭を下げた。

 この寒い中、わたしが出てくるのを待っていたのだろうか。

「ごめんなさい。雄太には会わないほうがいいと言われたけど、どうしても謝りたくて。ごめんなさい。どうしてもいてもたってもいられなかった」

 どれ程彼女のことを恨んだだろう。彼女の存在さえも、心の中で否定していた。でも、今はもう過去の事だった。

 さっき雄太に言ったように、それを過去にしたのはわたし一人の力ではない。

「もういいよ。お幸せに」

 雄太だけではなく、悪い感情しかなかった彼女に対してまでもそんな言葉が出てきたのは、聖がいたからだった。

 彼女の目から大粒の涙が毀れた。

「ごめんなさい」

 わたしは首を横に振ると、それ以上彼女にかける言葉が見つからず、頭をさげマンションを後にした。
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