わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 そのときはそれを受け入れようとは覚悟していた。それはどうやっても消すことのできない過去の一片なのだから。

 願わくば、そのときが一瞬でも長く続いてほしい。

 そうしたことを願うくらいは許されるだろう、と。

 わたしは唇をそっと噛みしめた。

「今年か、来年、ほのかさんが一区切りついてからでいいから結婚しよう」

 わたしはその言葉に驚き、聖を見た。

「今日、兄さんのところに行ったのはそれを話すためだったんだ。もっとも反対されてもそうするつもりだったけど。だから、考えてほしい。兄さんとはそんなに関わることはないといっても、無関係とはいかないし、ほのかさんには辛いことが多いだろうし、返事はすぐにとはいかないけど」

「後悔しないの?」

 嬉しいという言葉より、そんな不安感が先にあふれ出してきた。

 付き合うとはわけが違う。そのうえ、わたしは婚約破棄をされているのだ。

「ほのかさんとこのまま会わなくなったほうが後悔する気がする。やっぱりほのかさんにこうして傍にいてほしいと思う」

 屈託なく笑った彼の言葉に、わたしはそっと唇を噛みしめた。



< 207 / 208 >

この作品をシェア

pagetop