わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「きっと大丈夫だよ。雄太さん、本当にほのかのことが好きみたいだもの」
琴子は真っ赤なグロスを塗った唇から明るい言葉を紡ぎ出した。
「そうだよね」
それに同意するのは亜津子で、舞香も首を縦に振った。
「今日はわたしたちのおごりだから、ぱあっと飲もう」
少しだけ胃の辺りの重みが消えた気がした。
持つべきものは友だと良くいったと思うし、親に言う勇気も出てきた。
「ありがとう」
わたしは目頭が熱くなるのを感じ、軽く唇を噛んだ。
彼との関係がああいう形で一区切りついたわたしには、友人の優しさが痛いほど身に染みていた。
蛇口をひねると冷たい水が流れ出た。わたしはそれに手を伸ばした。手を洗い終えると、鏡に自分の姿を映し出した。家を出るときにも自分の顔を見たが、あのときよりすっきりした気がした。友人に優しい言葉をかけてもらったことで、心が楽になったのだ。
あとは親に話をしよう。同じように話をしたら大丈夫。そう言い聞かせて化粧室を後にした。
人のにぎわう店内で、琴子たちの姿を見つけた。
わたしが彼女たちの席に戻ろうとするより一足早く、彼女たちの明るい声がわたしの耳をかすめた。