わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「先輩の高校の後輩だよ」

 意外な答えに、わたしは拍子抜けして彼を見た。

 彼は自分の出身校を伝える。当然それはわたしの卒業した高校でもあった。

「先輩って、あなたわたしの後輩なの?」

「もちろん」

 もっとも高校時代に部活にも入らず、同学年の人とのやり取りしかなかったわたしには、他の学年の知り合いもほとんどいない。当然、彼のことも知らなかった。

 そのとき、冷たいものがわたしの頬に触れた。

 わたしが天を仰ぐと、私の体に影がかかった。彼はいつの間にか黒の折り畳み傘を取り出し、差していたのだ。

「濡れるよ」

 優しい言葉にわたしはただ頷いた。

「行こうか」

 彼はわたしに歩くように促した。

「どこ行くの?」

「バス停まで送るよ」

 彼はそういうと、優しく微笑んだ。

 優しさに飢えていたのだろうか。彼が同じ高校だと告げたからだろうか。それとも優しい笑みを崩したくなかったのだろうか。わたしは明確な理由がわからない。ただ彼についていくことになった。
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