わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 わたしの重荷は一つだけ消えたことになる。だが、わたしが親友と思っていた存在がそうでなかったことを気付かされた苦い週末でもあった。だからといって彼女たちとの付き合いを変えるのはまた難しそうだ。

なぜかと問われたり、理由を告げ逆切れされてしまえば余計に傷ついてしまうためだ。このまま知らない振りをして友達の顔をしているのがきっと幸せなのだ、と言い聞かせることにした。


 わたしたちは会社のあるビルから目と鼻の先にある公園に入った。ビジネス街に建ち並ぶ比較的大きな公園で、子供連れの女性や、わたしたちと同じように昼食を楽しんでいる人たちもいて、肌寒いこの時期でも多くの笑い声で満ち溢れている場所だ。


 わたしたちは机を中心に向かい合っているベンチに座ることにした。

 人が多い時間帯だが、屋根のあるこの場所は寒気を感じやすいのかあまり人気はなかった。

 わたしがお弁当を取りだそうとしたとき、ビニール袋に入れた黒い傘が飛び出してきた。

 わたしはそれを丁寧に片づけた。

「傘? 今日、天気がいいよね」

「いろいろあってね」

 彼とはどこでどう会うか分からない。そのため、こうして傘を持ち歩くことにした。偶然出会っても、傘を持っておらず返せなかったというのは避けたかったのだ。借りっぱなしになった傘は重荷というわけではないが、気がかりなもののうちの一つだ。
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