わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「気にしないでください。ほのかさんがそうやって俺のことを聞いてくれるとは考えもしなかったから。今は一人で暮らしています」

「一人暮らしは大変?」

「今は慣れたからそうでもないかな。もともと家の手伝いはしていたし、祖父母が近所の人の面倒をよく見ていたらしくて、周りも俺のことをいろいろ気遣ってくれているから。ただ、そういう場所だからこそ、商売には向かなかったのかもしれないなとは思った。ここみたいに人通りも多い場所じゃなかったし」

「そっか」

 場所というのはとても重要だろう。わたしと仁美がここに行きつけになったのたたまたま通りかかっただけで、住宅街の多い場所だとそうはいかないだろう。

 彼はふっと笑う。

 わたしは思わず自分の顔を抑えた。

 彼から笑われるよな表情をしていたのだろうかと思ったためだ。

「そうじゃなくて。ただ、ほのかさんとこうやって話ができるなんて考えたこともなかったから、ただ新鮮で、嬉しかった」

 彼は少年のようなあどけない笑顔を浮かべていた。

 わたしは不意打ちのような表情とセリフに、思わず彼を凝視していた。

「そんな大げさだよ」

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