わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「岡本さんは誰か友人と来たの?」

「いや、一人で。ちょっと今日は帰る気がしなかったから」

 彼は悲しそうに微笑んだ。

 その表情を見て、わたしの中である疑問が沸き上がった。その疑問は喉で止まることなく、するりと飛び出してきた。

「失恋したの?」

 彼は目を丸めた。

 どうやら違ったらしい。

「好きな人の話をしていたから、その人に失恋したのかなと思った」

「好きな人か。一度、その人には少し前に失恋しているから、本当は好きでいたらいけないんだけどね」

 彼は困ったような表情を浮かべて、頭をかいた。

「ごめんなさい」

 彼は無理そうだと言っていたのだ。それは失恋したからだったのだろう。彼を気遣ったはずなのに、いろいろと無神経なことを言ってしまった。

「気にしないで。それより、友達が向こうに行っているけれど、後を追ったほうがいいんじゃないかな」

 彼の指さした先には仁美たちがいた。早急すぎるが、どうやらわたしが彼と帰ると判断したのだろう。

「いいの。ここで別れようということになったから」


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