わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「一人で帰る?」

「そうだね」

「それなら一緒に帰ろう」

 わたしが誘うつもりだったのに、あっさりと彼にセリフを奪われてしまった。わたしは彼の言葉に頷いた。

「行こうか」

「もういいの?」

「はい。仕事でこの近くに来ただけで、たまたま見ていただけだから」

 彼はふっとイルミネーションに視線を送ると、悲しそうに微笑んだ。

 わたしはいろいろ考えて、無難な問いかけを導き出した。

「イルミネーションは苦手?」

「いえ。祖父母はいつも俺のことばかりで、こういう他愛物を楽しんだり、そんな余裕もなかったのかなと考えたら申し訳なくて」

 本当に彼は祖父母のことが好きだったんだろう。彼には両親がいなかったのだろうか。

「そっか。お店のほうも残念だったね。店のほうはどうなっているの?」

 わたしの問いかけに彼は虚をつかれたような顔をした。

 彼は突然笑い出した。

「ああいう言い方だとお店も閉じていると思わせたね。お店は残っているよ。俺の幼馴染のお母さんが、元パティシエで、週に三度だけお店を開けてくれているんだ。今はデザート専門の店になっているよ。たまに幼馴染も手伝ってくれている」
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