わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 二人は楽しそうに笑い、手をつないでいる。正確にはあの女の人が雄太の手をつかんでいた。雄太はそんな彼女を愛おしそうに見つめていた。

 彼は彼女を結局選んだのだ。頭では分かっていた。だが、事実を突きつけられるのはまた別問題だった。

 頬から冷たいものが零れ落ちる。

「ほのかさん?」

 振り返ると、困惑した顔の岡本さんが立っていた。

 ここで泣いてはいけない。そう思いながらも、目から溢れる涙の量は増える一方だ。

「ごめんなさい」

 拭っても、涙がとめどなく流れてくる。

 泣いてはいけない。そう言い聞かせるが、流れ出した感情を抑える術をわたしは知らなかった。

「ここから離れよう」

 彼はわたしに何かあったのを察したのか、手をつかむと、そのままわたしを人ごみの外に連れ出していた。


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