わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 彼は缶コーヒーをわたしの前に差し出した。彼は人気のない公園までわたしを連れてきてくれたのだ。そして、近くの自販機でコーヒーを購入してくれた。

 それを受け取ると、泣いてひきつる皮膚を動かし、なんとか笑顔を浮かべていた。

 彼はわたしの隣に座ると、何も言わずに前を見つめた。

 彼はその間、何も聞かなかった。そして、今もコーヒーの蓋を開けると、自分の分を飲み始めた。

 このまま黙っていても問題はないだろう。けれど、わたしは彼に聞いてほしかったのだ。わたしは心を整えるために、何度も深呼吸をした。

「さっき、人ごみの中に、前に言っていた婚約者がいたの」

 わたしは缶コーヒーを両手で包み、天を仰いだ。

 彼は驚いた顔をするだけで、何も言わなかった。

 急にこんな話を聞かせられ、戸惑っているのかもしれない。

「何がいけなかったんだろうね。告白されて付き合って、一年で、婚約したの。その間いろいろ頑張ったんだ」

 溢れそうになったそれ以上の泣き言を体内に押し戻すために、コーヒーを口に含んだ。それを飲み込んでから、天を仰いだ。

 嫌いだと言われたほうがすっきりしたかもしれない。だが、彼はそうは言わなかった。

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