イヌオトコ@猫少女(仮)
病室に戻った葦海。
「どうなっても知らんで?俺は」
怪我が、というよりは学校で、という意味だ。
「俺のことはどうでもええて、言うてるやないですか」
「お前がクビでよくても、内申に響くで。お嬢さんの」
火のないところに煙は立たない。
まだ2年とはいえ、真面目に頑張ってきた素行に傷がつくことになる。
結婚してないのにバツがつくようなものだ。
が、
「最悪、中退でもええやん」
「他人事みたいに言わないでください!
進学にも就職にも支障が出るじゃないですか!?」
思わず声を荒げる笑結。
「大体誰のせいでこんなことになってると思ってるんですか!?」
「そらそうや、お嬢さんにはお嬢さんの人生があって然るべき。
お前みたいなんと関わったばっかりに」
可哀想に、と、大袈裟に嘆いて見せる護浦。
「人を疫病神みたいに。ちょっと黙っててもらえませんか」
肩をすくめ、病室を出ていく護浦。
「せやから大阪に来てみるかって言うてるんや。なんか、やりたいこと、あるんか?将来」
いきなり教師らしいことを口にする葦海に言われて、言葉に詰まる。
両親からは大学だけは出ておきなさい、と漠然と言われ、
逆らう理由もなく、自分のために言ってくれているんだと、
思っているだけだった。
そして、なんとなく学生生活を堪能できればそれでよかった。
部活動も、本当は逢たちと同じにしたかったくらいなので、
吹奏楽部も辞めることに抵抗はなかった。
「なんかやりたいんやったら、力貸すし」
「別に、何かある訳じゃないですけど。大学行ったら見つかるだろうし」
「当てもないのに大学行くって、贅沢やな。いっそ汗水流して働け。
親のありがたみ、お金の大事さが、ようわかるよって」
大学に通いながらアルバイトをするという方法もあるが、
相当な気力、体力がいる。
学生バイトといえば基本接客だろうし、皿洗いひとつしたことのなさそうな、
人見知りで不器用な笑結に、
できるとも思えない。
最初は出来る、やりますと思っても
向き不向きでどちらかが疎かになることが多い。
「わ、わかってるつもりです。それなりには」
が、むしろ両親の考えを否定された気になって、拗ねる。
ふーん?
と首をかしげ、
「ちょっと、そこの鞄、取ってくれるか」
ベッドから脇の小さな棚にあるバッグを指差す。
三角斤で吊られているので動かせなかった。
「…これな、武道かじってたおじいの形見の傘やねん。
まだ、俺が高校生で元気やった頃、なんかあったとき使えるから
って持たされて」
「そうなんですか」
確かに、よく見るとボロボロだ。
持ち手にも細かい傷があり、
傘自体にも裂けたのを裏から張り合わせた痕がある。
過去にも身を守るために、似たような使い方をしたらしい。
大事そうに撫でる葦海。
昔ならではの丈夫な傘でなければここまで持たないだろう。
「あのとき落としたのも偶然やで?ちゃんと納してたはずやのに。
大事な傘、あんな落とし方したことないもん」
最初に会ったときのことだ。
笑結の隣で落とした傘は、鞄に仕舞ってあったと。
「それは嘘だあ。勝手に出てくるわけないでしょう?」
笑結はオカルト的なものを信じていないわけではなかった。
小学生の頃、
祖母が遠方から買ってきてくれたお守りで命拾いしたのだろうか
と
思う出来事があったのだ。
それを手にした翌日。
遠足だったのだが、朝足を捻挫し、泣く泣く諦めた笑結。
目的地まで乗っていくバスが事故を起こしたと、
ニュースで見たときは、ぞくりとしたものだ。
「なんやろなあ。最近、導かれてる気ぃしてきてん。おじいに」
「し、知りませんよ、そんなの」
缶コーヒーを持って護浦が帰ってきた。
笑結に手渡すと、
「これは俺からのご祝儀や。ほな、帰るわ。親父さんにはよう言うとくさかい」
「ごしゅうぎ…?」
意味を知らない笑結はぺこりとお辞儀し、受け取る。
「もう!ゴウさん!!親父にいらんこと言わんでくださいね!?」
うひゃひゃ、と笑うと、
「まあまあ、よろしいこって」
「ていうか、もう帰るんですか?
もうちょっとゆっくりしてったらええですやん」
「仕事のついでに寄っただけや。まあ、ええ人助けも出来たし?
お前に恩も売れたし。成果は上々や。またなんか、
困ったことあったら、いつでもおいで、お嬢さん。」
言いながら笑結にウインクする。
「ゴウさん!!」
手をひらひらさせ、帰っていった。
「どうなっても知らんで?俺は」
怪我が、というよりは学校で、という意味だ。
「俺のことはどうでもええて、言うてるやないですか」
「お前がクビでよくても、内申に響くで。お嬢さんの」
火のないところに煙は立たない。
まだ2年とはいえ、真面目に頑張ってきた素行に傷がつくことになる。
結婚してないのにバツがつくようなものだ。
が、
「最悪、中退でもええやん」
「他人事みたいに言わないでください!
進学にも就職にも支障が出るじゃないですか!?」
思わず声を荒げる笑結。
「大体誰のせいでこんなことになってると思ってるんですか!?」
「そらそうや、お嬢さんにはお嬢さんの人生があって然るべき。
お前みたいなんと関わったばっかりに」
可哀想に、と、大袈裟に嘆いて見せる護浦。
「人を疫病神みたいに。ちょっと黙っててもらえませんか」
肩をすくめ、病室を出ていく護浦。
「せやから大阪に来てみるかって言うてるんや。なんか、やりたいこと、あるんか?将来」
いきなり教師らしいことを口にする葦海に言われて、言葉に詰まる。
両親からは大学だけは出ておきなさい、と漠然と言われ、
逆らう理由もなく、自分のために言ってくれているんだと、
思っているだけだった。
そして、なんとなく学生生活を堪能できればそれでよかった。
部活動も、本当は逢たちと同じにしたかったくらいなので、
吹奏楽部も辞めることに抵抗はなかった。
「なんかやりたいんやったら、力貸すし」
「別に、何かある訳じゃないですけど。大学行ったら見つかるだろうし」
「当てもないのに大学行くって、贅沢やな。いっそ汗水流して働け。
親のありがたみ、お金の大事さが、ようわかるよって」
大学に通いながらアルバイトをするという方法もあるが、
相当な気力、体力がいる。
学生バイトといえば基本接客だろうし、皿洗いひとつしたことのなさそうな、
人見知りで不器用な笑結に、
できるとも思えない。
最初は出来る、やりますと思っても
向き不向きでどちらかが疎かになることが多い。
「わ、わかってるつもりです。それなりには」
が、むしろ両親の考えを否定された気になって、拗ねる。
ふーん?
と首をかしげ、
「ちょっと、そこの鞄、取ってくれるか」
ベッドから脇の小さな棚にあるバッグを指差す。
三角斤で吊られているので動かせなかった。
「…これな、武道かじってたおじいの形見の傘やねん。
まだ、俺が高校生で元気やった頃、なんかあったとき使えるから
って持たされて」
「そうなんですか」
確かに、よく見るとボロボロだ。
持ち手にも細かい傷があり、
傘自体にも裂けたのを裏から張り合わせた痕がある。
過去にも身を守るために、似たような使い方をしたらしい。
大事そうに撫でる葦海。
昔ならではの丈夫な傘でなければここまで持たないだろう。
「あのとき落としたのも偶然やで?ちゃんと納してたはずやのに。
大事な傘、あんな落とし方したことないもん」
最初に会ったときのことだ。
笑結の隣で落とした傘は、鞄に仕舞ってあったと。
「それは嘘だあ。勝手に出てくるわけないでしょう?」
笑結はオカルト的なものを信じていないわけではなかった。
小学生の頃、
祖母が遠方から買ってきてくれたお守りで命拾いしたのだろうか
と
思う出来事があったのだ。
それを手にした翌日。
遠足だったのだが、朝足を捻挫し、泣く泣く諦めた笑結。
目的地まで乗っていくバスが事故を起こしたと、
ニュースで見たときは、ぞくりとしたものだ。
「なんやろなあ。最近、導かれてる気ぃしてきてん。おじいに」
「し、知りませんよ、そんなの」
缶コーヒーを持って護浦が帰ってきた。
笑結に手渡すと、
「これは俺からのご祝儀や。ほな、帰るわ。親父さんにはよう言うとくさかい」
「ごしゅうぎ…?」
意味を知らない笑結はぺこりとお辞儀し、受け取る。
「もう!ゴウさん!!親父にいらんこと言わんでくださいね!?」
うひゃひゃ、と笑うと、
「まあまあ、よろしいこって」
「ていうか、もう帰るんですか?
もうちょっとゆっくりしてったらええですやん」
「仕事のついでに寄っただけや。まあ、ええ人助けも出来たし?
お前に恩も売れたし。成果は上々や。またなんか、
困ったことあったら、いつでもおいで、お嬢さん。」
言いながら笑結にウインクする。
「ゴウさん!!」
手をひらひらさせ、帰っていった。