イヌオトコ@猫少女(仮)
そういえば幼稚園の頃、そんなことを言った。
生真面目な人間がもう一人いた。
「ほ、ほんじゃあ、いんじゃんで決めようや」
先に言ったのは自分なのに、と割って入る葦海。
「いん…?」
「何言ってるんです?こんな大事なこと、
じゃんけんなんかで決められるわけないでしょう?!」
「じゃんけんのことなんだ…」
笑結も呆れる。
しかも負けたらどうする気だ。
「そんなん!そうかて!不公平やんけ!
身内のイケメン引き合いに出されたって勝ち目ないし!」
負け前提だ。急に弱腰になる。
「そら、他の男に取られたないけど、俺がそうしたいだけで、
ミケ子は俺のこと嫌いみたいやし、幸せにする自信なんかないし」
「幸せにできないのにプロポーズするのって、おかしいでしょう」
「それは当然の意見だ」
父の援護を受け、土俵に上がる千里。戦闘意欲をむき出しにする。
「もちろん、不幸にしたろうなんて思ってませんけど。
今日から友達、とか、幸せに、とか、しよう、なろうと思ってなるもんやなくて、
一緒にいてなんとなく感じてくるもんでしょう?結果的に」
またまともなことを言い始める。
「俺が、一緒にいたくなったんです。それだけじゃ、あきませんか」
一番シンプルな言葉に、ドキッとする笑結。
「わ、私は…」
「じゃあ、一度だけ、デートさせてもらえませんか?ちゃんと
僕のこと知ってもらった上で、
ダメならダメで構わないので」
なんとなく本人の言葉を聞くのが怖くなってきた千里。
「ほんじゃ、保護者同伴で」
「それこそ不公平じゃないですか!?」
目の前で起きていることが信じられない。
自分のために?
男の人2人が?
言い合ってる???
夢でも見ているのではないだろうか。
熱に浮かされて。
こっそりと頬をつねって見る。
痛かった。
けほけほと、咳が出た。
「そろそろお薬飲んで暖かくして寝ないと」
はっと我に返った母に促される。
「で、でーと、しようか。奏くん」
「い、いいの?本当に??」
「はあ?!あかんて、おい!なに言い出す…」
「やっぱり一度、ちゃんとお話はしないとね。奏くん」
「いや、あかんて!」
「そういうことなので、センセーは安心して大阪にお帰りください」
「俺をハミゴにする気か!?」
慌てる葦海を見ているうちに、
少しくらい意地悪してもいいかもしれないと思った。
さんざん振り回されたのだ。
「あーそうですか、そうですか、わかりましたよ。
そんなにイケメンがよかったら好きにせえ!俺はもう知らん、
合コンでもしてきゃわいい彼女作ったる!後悔すんなよ!?」
「するもんですか」
ふーんだ!とそっぽを向く笑結。拗ねる葦海。
そんなことはできないと分かってきた。
が、
学校や家で見せたことのない笑結に、なんだか急に遠くに感じてしまった父と千里。
そして結婚の申し込みをしに来て、もう別の彼女を作ると
公言した葦海に、父も呆れ、
「あなたがどういう処分を受けようが、うちには関係ないことです。
あなたのような方に娘を任せることはできません。お引き取りください」
「お父さん…」
追い返そうと席を立つ。
「いずれにしても、お前にはまだ早い話だ。
ちゃんと勉強して大学を出て、就職してからでも遅くない。
この際デートと言わず、千里くんとお付き合いすればいいじゃないか。
ましてやこんないい加減な男、許せるわけがないだろう。
仕事だってあっさり辞めてしまうような男だ」
「仕事」
「うん?」
「してたらええんですか?仕事。そういうことですやんね?」
その表情に余裕が戻る。
「部活の顧問に関しては、近畿圏で非常勤の希望やったんが
たまたま関東なっただけで、結果的に迷惑掛けてもうたし、
首切られても文句言える立場やのうて辞めましたけど。
仕事は大阪でもちゃんとありますし、性格ええ加減なんは認めますけど、
筋は通したいんで。聞き捨てならんこともあるんです」
今の父に食い下がる葦海に驚いていた。
「そ、それだけのことじゃない!」
「じゃあ、なんですか?」
「とにかく!私は疲れてるんだ!!帰りたまえ!!帰ってくれ!!」
「僕のことはともかく、
本人の意思に関係なく、親が敷いたレールに子供乗せるの、
よくない思いますけど。やりたいことがあっての進学就職に聞こえんかったもんで。
あと、千里を保険みたいにいうのもどうかと思いますね、人として」
本来なら恋敵の千里の肩まで持ち始める。
「うちのやり方に口出ししないで頂きたい」
「それはできない相談ですね」
「なに!?」
聞き覚えのあるフレーズだった。
ふと、不安に襲われる。
「ここは一教員として言わしてもらいます。
本人の言葉を聞いて、やりたいことをまず、やらしたってください。
もしくはちゃんと本人の考えで決めさせたってください」
正論をぶつけられ、顔を赤くする父。
「ほんじゃあ、言いたいことは言わしてもろたんで、
お暇します。お騒がせしました」
「ふん!今さら聞いても意味ないが、名前も聞いてなかったな」
屈辱を二度と忘れまい。と、
負け犬の遠吠えだ。
「ああ、申し遅れました!あしうみ、と申します。
バイトなもんで名刺もありませんが、お見知りおきを」
にやりと笑い、お辞儀する。
「えっ…?」
変わった苗字だ。
「ま、まさかと思うが…」
「何でしょう」
「ひょっとして、葦海……電子…工業の」
「…そういえば、どこかで聞いた名前だと思ったら、
関西で手広く活動してる企業だと、テレビで紹介されているのを
見たことがあります。偶然だと思ってました」
「そうなの?」
「ああ、そういえばおじいの頃から町工場で、叔父と父も
機械関係で、基盤やら車の部品やら、いろいろやってるみたいですね。それがなにか」
「知ってるの?お父さん…」
母娘が驚く。
「大阪の、葦海工業と言えば、会長から受け継いで、
今は兄弟で経営してる大企業だ。…創始当時から、我が社の
ライバル企業の大元だ。会長の口癖が…『できない相談』」
「ああ、そうですね。なんか移ってますわ。そうそう。
おじいが会長とか言われてました」
「どうあがいても、一歩先に新商品を開発させて成功させる。嫌な会社だ…」
「苦労なくして成功なし。もちろんそれなりの代償はありますよ?
けどいかに人様のお役に立てるか、社会に貢献できるか。
発想の柔軟性の違い、ということですわ。あとは苦労と努力の賜物、ですね」
ここでそれを口にするとは、本当に嫌な奴だ。
ライバル企業の親と、中堅の子会社では歯も立たないが、
子会社とはいえ管理職を任されている以上、関わらない方が懸命だろう。
「そういうことならなおさら、娘とは関わらないで頂きたい。お引き取りを」
冷たく言い放つ。
「実地研修、延期はありですけど強制なんで」
あくまで業務連絡だ。ムードかない。
生真面目な人間がもう一人いた。
「ほ、ほんじゃあ、いんじゃんで決めようや」
先に言ったのは自分なのに、と割って入る葦海。
「いん…?」
「何言ってるんです?こんな大事なこと、
じゃんけんなんかで決められるわけないでしょう?!」
「じゃんけんのことなんだ…」
笑結も呆れる。
しかも負けたらどうする気だ。
「そんなん!そうかて!不公平やんけ!
身内のイケメン引き合いに出されたって勝ち目ないし!」
負け前提だ。急に弱腰になる。
「そら、他の男に取られたないけど、俺がそうしたいだけで、
ミケ子は俺のこと嫌いみたいやし、幸せにする自信なんかないし」
「幸せにできないのにプロポーズするのって、おかしいでしょう」
「それは当然の意見だ」
父の援護を受け、土俵に上がる千里。戦闘意欲をむき出しにする。
「もちろん、不幸にしたろうなんて思ってませんけど。
今日から友達、とか、幸せに、とか、しよう、なろうと思ってなるもんやなくて、
一緒にいてなんとなく感じてくるもんでしょう?結果的に」
またまともなことを言い始める。
「俺が、一緒にいたくなったんです。それだけじゃ、あきませんか」
一番シンプルな言葉に、ドキッとする笑結。
「わ、私は…」
「じゃあ、一度だけ、デートさせてもらえませんか?ちゃんと
僕のこと知ってもらった上で、
ダメならダメで構わないので」
なんとなく本人の言葉を聞くのが怖くなってきた千里。
「ほんじゃ、保護者同伴で」
「それこそ不公平じゃないですか!?」
目の前で起きていることが信じられない。
自分のために?
男の人2人が?
言い合ってる???
夢でも見ているのではないだろうか。
熱に浮かされて。
こっそりと頬をつねって見る。
痛かった。
けほけほと、咳が出た。
「そろそろお薬飲んで暖かくして寝ないと」
はっと我に返った母に促される。
「で、でーと、しようか。奏くん」
「い、いいの?本当に??」
「はあ?!あかんて、おい!なに言い出す…」
「やっぱり一度、ちゃんとお話はしないとね。奏くん」
「いや、あかんて!」
「そういうことなので、センセーは安心して大阪にお帰りください」
「俺をハミゴにする気か!?」
慌てる葦海を見ているうちに、
少しくらい意地悪してもいいかもしれないと思った。
さんざん振り回されたのだ。
「あーそうですか、そうですか、わかりましたよ。
そんなにイケメンがよかったら好きにせえ!俺はもう知らん、
合コンでもしてきゃわいい彼女作ったる!後悔すんなよ!?」
「するもんですか」
ふーんだ!とそっぽを向く笑結。拗ねる葦海。
そんなことはできないと分かってきた。
が、
学校や家で見せたことのない笑結に、なんだか急に遠くに感じてしまった父と千里。
そして結婚の申し込みをしに来て、もう別の彼女を作ると
公言した葦海に、父も呆れ、
「あなたがどういう処分を受けようが、うちには関係ないことです。
あなたのような方に娘を任せることはできません。お引き取りください」
「お父さん…」
追い返そうと席を立つ。
「いずれにしても、お前にはまだ早い話だ。
ちゃんと勉強して大学を出て、就職してからでも遅くない。
この際デートと言わず、千里くんとお付き合いすればいいじゃないか。
ましてやこんないい加減な男、許せるわけがないだろう。
仕事だってあっさり辞めてしまうような男だ」
「仕事」
「うん?」
「してたらええんですか?仕事。そういうことですやんね?」
その表情に余裕が戻る。
「部活の顧問に関しては、近畿圏で非常勤の希望やったんが
たまたま関東なっただけで、結果的に迷惑掛けてもうたし、
首切られても文句言える立場やのうて辞めましたけど。
仕事は大阪でもちゃんとありますし、性格ええ加減なんは認めますけど、
筋は通したいんで。聞き捨てならんこともあるんです」
今の父に食い下がる葦海に驚いていた。
「そ、それだけのことじゃない!」
「じゃあ、なんですか?」
「とにかく!私は疲れてるんだ!!帰りたまえ!!帰ってくれ!!」
「僕のことはともかく、
本人の意思に関係なく、親が敷いたレールに子供乗せるの、
よくない思いますけど。やりたいことがあっての進学就職に聞こえんかったもんで。
あと、千里を保険みたいにいうのもどうかと思いますね、人として」
本来なら恋敵の千里の肩まで持ち始める。
「うちのやり方に口出ししないで頂きたい」
「それはできない相談ですね」
「なに!?」
聞き覚えのあるフレーズだった。
ふと、不安に襲われる。
「ここは一教員として言わしてもらいます。
本人の言葉を聞いて、やりたいことをまず、やらしたってください。
もしくはちゃんと本人の考えで決めさせたってください」
正論をぶつけられ、顔を赤くする父。
「ほんじゃあ、言いたいことは言わしてもろたんで、
お暇します。お騒がせしました」
「ふん!今さら聞いても意味ないが、名前も聞いてなかったな」
屈辱を二度と忘れまい。と、
負け犬の遠吠えだ。
「ああ、申し遅れました!あしうみ、と申します。
バイトなもんで名刺もありませんが、お見知りおきを」
にやりと笑い、お辞儀する。
「えっ…?」
変わった苗字だ。
「ま、まさかと思うが…」
「何でしょう」
「ひょっとして、葦海……電子…工業の」
「…そういえば、どこかで聞いた名前だと思ったら、
関西で手広く活動してる企業だと、テレビで紹介されているのを
見たことがあります。偶然だと思ってました」
「そうなの?」
「ああ、そういえばおじいの頃から町工場で、叔父と父も
機械関係で、基盤やら車の部品やら、いろいろやってるみたいですね。それがなにか」
「知ってるの?お父さん…」
母娘が驚く。
「大阪の、葦海工業と言えば、会長から受け継いで、
今は兄弟で経営してる大企業だ。…創始当時から、我が社の
ライバル企業の大元だ。会長の口癖が…『できない相談』」
「ああ、そうですね。なんか移ってますわ。そうそう。
おじいが会長とか言われてました」
「どうあがいても、一歩先に新商品を開発させて成功させる。嫌な会社だ…」
「苦労なくして成功なし。もちろんそれなりの代償はありますよ?
けどいかに人様のお役に立てるか、社会に貢献できるか。
発想の柔軟性の違い、ということですわ。あとは苦労と努力の賜物、ですね」
ここでそれを口にするとは、本当に嫌な奴だ。
ライバル企業の親と、中堅の子会社では歯も立たないが、
子会社とはいえ管理職を任されている以上、関わらない方が懸命だろう。
「そういうことならなおさら、娘とは関わらないで頂きたい。お引き取りを」
冷たく言い放つ。
「実地研修、延期はありですけど強制なんで」
あくまで業務連絡だ。ムードかない。