イヌオトコ@猫少女(仮)
「あれ?ミィ?」
笑結の住むマンションの向かいの公園、
その奥、一番遠い位置にあるフェンスと植え込みの隙間で
どろどろになったミィを、葦海が見つけたのは奇跡に近かった。
大阪に引き払い、向こうで一段落したが、
やはり笑結と千里のデートが気になって、様子を窺いに
犬を散歩させるという口実で、親に借りた車で粘ってみたのだ。
この辺りでうろついていれば、運がよければ会えるかもしれない。
連絡先も聞かずじまいで、仮に聞いても連絡する男ではなかった。
やっていることは一歩間違えたらストーカーだが。
来月から別の仕事で、それまで時間を持て余していた葦海。
車の免許は持っていたが、
妙なところで、どん臭かった。
普通免許を取るのも人の倍の期間が掛かってしまった。
筆記試験は一発合格したのに、実技の路上講習で引っ掛かった。
大阪は歩行者や自転車が多く、危険度が格段に高かったが、
仮免許の
高速道路の合流で嵐に見舞われ、ダンプに煽られ、
滅多とない確率で鬼教官に当たってパニクり、原付相手に接触しかけ、
全てがトラウマになり、ようやく受かったものの、
すっかり運転するきっかけをなくしてしまっていた。
それでも親から借りて頑張ってみようとしたが、
5回に2回は軽く擦ったり溝にはまるなど自損事故を起こし、
バッテリー上がりで業者のお世話になっていた。
対人事故にならないのが奇跡なくらいで、人でも轢いたらと思うとげんなりして、
自分用の車など考えられなかった。
大人しい人間がハンドルを持つと凶暴になるというが、
葦海の場合は慎重すぎる上に周りが見えなくなるタイプだった。
長年ペーパードライバーが続いたが、これを機にと重い腰を上げ、自分で運転する気になったのだ。
これも笑結の力と言えばそうだろう。
「助手席でサポートしよか」
と見かねて言ってくれた友人にも、
まさか彼女に会いたいからともいえない。
がちがちに緊張した状態で、ようやくここまで来た。
この公園は広く、犬の散歩にもってこいだった。
同様に大型犬を散歩させる姿もあった。
昼過ぎだったが、どんよりとした曇り空で、
風も強く冷たく、
今にも消えそうな声でどこからともなく聞こえる鳴き声を頼りに
3匹の犬と探してうろうろしていた。
見知らぬ捨て猫だったとしても、みすみす見逃すことはできない。
動物病院迷子や里親探しの貼り紙を見るが、
引っ越しした以上、新しい飼い主を探すのも面倒だし、
連れて帰って仲間にするだけだ。
事故にでも遭ったのか、後ろ足を引きずり、痛々しい姿のミィを
迷わずダウンジャケットにくるみ、
近くにあった動物病院に駆け込んだ。
それなりに設備の整った大きな病院だ。
「今日は夕方から雨が降るとか言ってましたよ。
あと半日遅かったら、どうなっていたか」
医者から言われ、思わず頬擦りする。
「よかった…」
点滴と治療で入院することになった。
「この子もしかして…」
「ですよね」
会計時、受付の女性がカウンターを出て見に来た掲示板の貼り紙を見た。
写真つきで、
『迷い猫、探しています』
とある。
間違いなくミィだった。
「さあてと、どうしてくれようかね」
葦海の目付きが変わる。
笑結や家族がそんなことをするはずもなく、
自分から出ていく勇気もないだろう。
飼い主の目を盗んでやったのだ。
おおよそ、こんなことをしそうな人間の目星は付いていた。
笑結の住むマンションの向かいの公園、
その奥、一番遠い位置にあるフェンスと植え込みの隙間で
どろどろになったミィを、葦海が見つけたのは奇跡に近かった。
大阪に引き払い、向こうで一段落したが、
やはり笑結と千里のデートが気になって、様子を窺いに
犬を散歩させるという口実で、親に借りた車で粘ってみたのだ。
この辺りでうろついていれば、運がよければ会えるかもしれない。
連絡先も聞かずじまいで、仮に聞いても連絡する男ではなかった。
やっていることは一歩間違えたらストーカーだが。
来月から別の仕事で、それまで時間を持て余していた葦海。
車の免許は持っていたが、
妙なところで、どん臭かった。
普通免許を取るのも人の倍の期間が掛かってしまった。
筆記試験は一発合格したのに、実技の路上講習で引っ掛かった。
大阪は歩行者や自転車が多く、危険度が格段に高かったが、
仮免許の
高速道路の合流で嵐に見舞われ、ダンプに煽られ、
滅多とない確率で鬼教官に当たってパニクり、原付相手に接触しかけ、
全てがトラウマになり、ようやく受かったものの、
すっかり運転するきっかけをなくしてしまっていた。
それでも親から借りて頑張ってみようとしたが、
5回に2回は軽く擦ったり溝にはまるなど自損事故を起こし、
バッテリー上がりで業者のお世話になっていた。
対人事故にならないのが奇跡なくらいで、人でも轢いたらと思うとげんなりして、
自分用の車など考えられなかった。
大人しい人間がハンドルを持つと凶暴になるというが、
葦海の場合は慎重すぎる上に周りが見えなくなるタイプだった。
長年ペーパードライバーが続いたが、これを機にと重い腰を上げ、自分で運転する気になったのだ。
これも笑結の力と言えばそうだろう。
「助手席でサポートしよか」
と見かねて言ってくれた友人にも、
まさか彼女に会いたいからともいえない。
がちがちに緊張した状態で、ようやくここまで来た。
この公園は広く、犬の散歩にもってこいだった。
同様に大型犬を散歩させる姿もあった。
昼過ぎだったが、どんよりとした曇り空で、
風も強く冷たく、
今にも消えそうな声でどこからともなく聞こえる鳴き声を頼りに
3匹の犬と探してうろうろしていた。
見知らぬ捨て猫だったとしても、みすみす見逃すことはできない。
動物病院迷子や里親探しの貼り紙を見るが、
引っ越しした以上、新しい飼い主を探すのも面倒だし、
連れて帰って仲間にするだけだ。
事故にでも遭ったのか、後ろ足を引きずり、痛々しい姿のミィを
迷わずダウンジャケットにくるみ、
近くにあった動物病院に駆け込んだ。
それなりに設備の整った大きな病院だ。
「今日は夕方から雨が降るとか言ってましたよ。
あと半日遅かったら、どうなっていたか」
医者から言われ、思わず頬擦りする。
「よかった…」
点滴と治療で入院することになった。
「この子もしかして…」
「ですよね」
会計時、受付の女性がカウンターを出て見に来た掲示板の貼り紙を見た。
写真つきで、
『迷い猫、探しています』
とある。
間違いなくミィだった。
「さあてと、どうしてくれようかね」
葦海の目付きが変わる。
笑結や家族がそんなことをするはずもなく、
自分から出ていく勇気もないだろう。
飼い主の目を盗んでやったのだ。
おおよそ、こんなことをしそうな人間の目星は付いていた。