イヌオトコ@猫少女(仮)
各学年1クラス40人ほどで

3クラスある。ひとつ上の階が3年の教室だ。


部活で顔を合わせる生徒もいたが、大半は見知らぬ生徒で、

階段を上がりきった所で、さすがに逢と笑結は緊張した。


階段の手すりの陰からこっそり伺う。いざとなると動けない。


「ビビるくらいならやめとけって」

後ろから呆れて声を掛ける葦海。

ひっ!となり、どこから出たのかわからない声で、


「なななっ!?何しに来たんですかっ!?呼んでないですよっ!?」

「いや別に?オモロそうやったから着いてきただけや」


今度は葦海がにやにやする。言われっぱなしでは癪だったのだ。

予想外の展開にたじろぐ逢。


「高見の見物、さしてもらうで。せいぜい頑張れや」


むっとしながら意地になる逢。


「何してんの?こんなところで」


蓮谷本人だ。陰でこそこそする三人に気付き、覗きに来たようだ。

「こっ、この子が、先輩に、お話が、ありまして」


苦し紛れに笑結を押し出す逢。


「えっ!?えっ!?」


突然の展開におろおろする。強引に連れて来ておきながら無責任だ。

「何?」

「えっと、えっと今朝は、そう!今朝はありがとうございました!」

赤くなり、土下座にもなりそうな勢いで、必死でお辞儀する。

それだけで精一杯だった。


「こいつ、お前が好きなんやて」

「えええっ!??」


逢が一番驚く。半ば笑結を泣かせた葦海への嫌がらせでやろうとしたことなのに、

妙な虫がつく前に手を打とうと。

あまりのことに、鳶川もぽかんとする。


「あ、ありかとう…でも僕、卒業したら京都の大学にいくから、…
気持ちだけもらっておくよ」


やっぱりそういうタイプの人間か、と葦海は思った。


ちやほやされ過ぎて本気で好きになったことがないか、ただの遊び人か。


いずれにせよ手放しでは喜べない。


「あかんやと、諦めるか」


諦めてください!という鳶川の祈りも届かず、


「いえ!一度!一度でいいので、デート、してあげてくれませんか!?」


逢も引き下がれず必死になる。
あまりの気迫に戸惑ったが、


「ま、まあ、そんなに言ってくれるなら、今度、デートしようか?」


男二人が羨ましくなる鳶川。自分にはどちらの真似もできない。


「保護者同伴でもええか」


様子を見ながら、探りを入れる。

「はあ!?何言ってるんですか!?何が保護者なもんですか!

茶化したいだけじゃないんですか!?」


思わず口を開いた逢にせせら笑うと、


「あほか、はじめてのお使い、わざわざ邪魔しにいくほど

暇やないねん!乗り掛かった船や、品定めさしてもらう権利はあると思うで」


「乗り掛かったというより、一方的に乗り込んできた密入国者のくせに!」


「お!上手いこと言うね!」

「ふざけないでくたさい!」


どこまで真面目なのか掴めない葦海に、逢がヒートアップする。


邪魔したいのは山々だったが、そんな勇気もない鳶川は

今度は葦海の応援に入る。


「ご馳走してくれるなら、同乗してもいいですよ」


蓮谷が乗ってくる。


「あほ!何で人のデート代、俺が出さなあかんねん!集るな

たかるな、男やったら自分の甲斐性で女子に思い出、作ったらんかい」


「えっらそうに!!」


言うことだけは一人前だ。
女子二人に睨まれ、身を縮める素振りをする。


「おーこわ!なんやチョロ吉もようやく喋れるようになったか」


「チョロ吉??」

きょとんとする三人。

にやにやする葦海。赤くなりますます小さくなる笑結。


「『チョロ吉』にも触れないで…」

こんなときに言わなくても、と泣きそうになる。


けれど、ふと緊張を解そうとしてくれたのか?と、少し思ってしまった笑結。


「と、とにかく、改めて連絡します。先輩のアドレス、聞いていいですか…?」


顔も見られず、うつむき震えながら絞り出す声に、


「ああ…うん。SMSでもいい?」


「じ、充分です!」


メールはさすがに抵抗があったようで、携帯番号をメモした

紙を渡してくれた。


嬉しそうに握りしめる笑結。


「トモキー!なにしてんのよ?誰ぇ?そのコ」


いかにも狙っていそうな、妙に色気のある、化粧の上手い女子が

気だるそうに声を掛けてきた。


蓮谷に腕を絡ませ、笑結と逢を睨み付ける。


本人はモデルか女優希望だろうが、どちらかといえば

夜の仕事の方が似合いそうだ、

と葦海は思った。


「ありがとう、逢」

「よかったのう」


ひとまずホッとした様子の逢。


結局終始、誰にも気付かれなかった鳶川は、背後霊のように

肩を落とす。


「遅〜〜い!」


笑結と逢が教室に戻ると、痺れを切らせた悠が自分の席でふて腐れていた。


ちょうど始業のチャイムが鳴った。

「何していたのだ!?人がトイレにいってる間に!校長室にも

教員室にもいなかったし!遅いから探しに行ったのだよ!?」


一人仲間外れにされ拗ねる。


「ごめんねぇ?実は…」


ことの次第を話す。


「そんな重大な事態を私抜きで!許せん!今日は帰りに何か奢ってもらう!」


笑結が苦笑いし、顔の前で拝むと、

「ごめん!今日はムリかも」

「その新任とやらか!サボってしまえ!親友への詫びと新任の

顔見せとどちらを取るのだ!」


そもそもそいつのせいでこんな事態になっているのだ。と悠。


笑結と逢が顔を見合せ、


「そうだね、いいか、一日くらい」
「そういえば、次のパソコン検定、受けるであろう?」


年数回、専門科の検定がある。
商業簿記検定、珠算検定と。


電卓が主流で、珠算は実用性は低いように思えるが、暗算に強くなるのは確かだ。

履歴書の資格欄にも書ける。


「あっ、いつだっけ」

「来月の頭だ」

「私はパス…」

「またか、笑結姫。たまには受けんと商業科にきた意味がないぞ」

「だってぇ、データ全部消えちゃったんだよう…」


会社で使用する挨拶文の雛形を、その通りに入力するもので、


緊張でキーボードがうまく打てず一度目は落ち、

猛勉強して臨んだ二度目は、プリントアウト寸前に

コードが抜けるハプニングに見舞われ、

保存前で全部白紙になってしまったのがトラウマになってしまった。

「逢や悠はいいよね〜自分ちにパソコンあるし、趣味でいじってるのもあるし」


ふて腐れ、机にぐったりする笑結。

ブラインドタッチができる二人は次には一級が取れそうだった。





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