この先の君を見るために
歯車
今まで過去にしか戻ったことのない俺は、この時初めて未来に進んだのだ。
あろう事か、彼女が事故にあう朝のバスに...
もしかして、あの時寝る前に事故をどう防ごうか考えすぎて、今日に飛んでしまったのかもしれない。
だとしたら、
((((不運過ぎるだろおい!)))
心の中で全力で叫んでもこの状況は変わらない。
焦りに焦っていると、バスが停止して彼女が乗ってくる。そして俺を見つけるなり微笑みながら歩み寄ってきた。
「おやよっ。今日も一緒だねっ」
笑いながら挨拶を交わすと、清水さんはなんの躊躇もなく俺の席に座ってきた。
まて、今はどこの今日なんだ?
オリジナルの世界?それともハンカチを渡してバス停で長話をした俺が、昨日上手くやり過ごした世界?
だとしたら、昨日の俺は何をしていたんだろう?メールアドレスは聞けたのだろうか?
俺が思考回路をグルグル駆け巡ってる間、清水さんは俺になにか話していたようだが、俺は適当にしか返事が出来なかった。
どうする俺、今連絡先さきを聞くか?いやしかし、もし昨日の俺が聞いていたとしたら、俺は2回も連絡先を聞いてきたただの変人と勘違いされてしまう。
ここはとりあえず、連絡先は諦めて世間話?いや、もし今から俺が話そうとしている話題を昨日の俺がしていたとしたら、同じ話を2日続けてしてくる馬鹿だと思われてしまう。
俺の話題レパートリーは狭い、それは俺が一番分かっている、
一体どうすればいいんだ...
右にも左にも動けずにいると、彼女から話題を出してきてくれた。
「ねえ、もしかして昨日、長電話し過ぎて親に怒られちゃったの?」
不安げに聞いてきた彼女の目は、少し涙目で、キラキラと輝いていた。
ちょっと待て、電話だと!?
昨日の俺は電話番号を聞くことが出来たのか!?
(((グッジョブ昨日の俺!!)))
「別に怒られてないけど、どうしてそう思うの?」
心の中でホットしながら、ようやく課題を終わらせることの出来た小学生の様な気分で、質問に質問を返すようにして返事をした。
「だってさっきからずっと話してないじゃん、私何もしてないし、それしか思い浮かばなかったのっ」
口を膨らませてすねている様な清水さん。こんな表情をさせるくらい昨日の俺は打ち解けていたのかあ!
心の底で泣いてしまうほど喜んだ俺は、清水さんの考えを勘違いだと否定すると、
また今日も電話をしたいと告げることが出来た。
彼女は少し悩んだ後に、「いいよっ」と応えてくれた。
後俺に残った仕事は、彼女を交通事故現場に行かせないことだけだった。
「ねえ、浅野くんは夢って持ってる?」
第一ミッションを既に終えて、落ち着いた気持ちでバスに揺られていた俺に、清水さんがあの質問をしてきた。
そうだ、この質問が来るのを忘れていた....!!
俺は急いで答えようとしたがどうしても言葉が出てこなかった。目をキョロキョロと動かしていると彼、女はゆっくりと腰を上げ始めた、
「大学!いい大学に行きたい!!」
土壇場で出た言葉は清水さんの足をギリギリで止めてくれた。
「いい大学に、行きたいの?」
彼女は俺に向かって首をかしげながら聞いてきた。
俺はぎこちなく頷くと、その姿を見た清水さんは、そのままバスを降りていった。
俺の出した答えは、間違っていたのだろうか。
答えがあるかないかも分からない問題の答案用紙のは、配られることなく時間は過ぎていった。