この先の君を見るために
コンテニュー
キーンコーンカーンコーンー
ホームルームが終わると、少し早歩きでバス停に向かった。
今日は前回の失態を恐れ、朝はオリジナル(本当の世界)と同じ様に声はかけなかった。
バス停に着くと、古汚いベンチに腰をかけバスが来るのを待った。
数分後にバスがくる、いつも通りの時間のバスだ。
俺はそのバスに乗ると、清水さんがハンカチを落とす場所の見える席に腰を下ろした。
いよいよだ...
バスが停止してドアが開く。
そして彼女がオリジナルの世界と同じ所に座ったのを確認すると、俺はひたすら清水さんの事を見続けた。
次々にバス停が過ぎていく中、俺は1度も彼女から目を逸らさなかった。
オリジナルの世界で話しながら過ぎる5つのバス停の距離は、あんなに短かったはずなのに、今過ぎていくバス停は、まるで誰かが少しづつ幅を広げたんじゃないかと思えるくらい遠かった。
いよいよ、彼女の降りるバス停につく。
彼女が席を立ち前え進み出してから5秒ほど間をとって腰を上げる。
彼女の座っていた椅子からハンカチを拾い上げると、急いでバスを降りてオリジナルの世界同様、彼女にハンカチを渡した。
しかし、俺はあえて少しオリジナルと違う行動を取ったのだ。
「あの、ハンカチ落としませんでした?」
バスを降りてすぐのところで清水さんに話しかける。
すると彼女は、あっとした顔を見せながら俺の手からハンカチを受け取った。
「ありがとうございますっ、全く気づきませんでした。ってあ!バス行っちゃいましたよ!?」
そう、オリジナルでは直ぐにバスに乗って家に向かったのだが、今回俺はバス料金を払って降りてきたのだ。
こうすることにより、あの時は数秒しか話せなかった時間を、今回はがっつり話し込む作戦に持ち込んだのだ。
「あっ本当だ、まあ次のバスで帰れますよっ」
なるべく明るく振る舞い、親切心丸出しで俺は答えた。
「すいません私のせいで、えっと、私清水 爽香って言います。もしかして貴方は、いつもこの時間のバス乗ってらっしゃる方ですよね?」
驚いた、オリジナルではこの翌日に彼女の名前を伝えられたのだが、まさかこの時空(やり直した世界)の清水さんは、俺が同じバスに乗っていることに気づいていたのだ。
「そうなんですよ!ほんと偶然ですよね!あ、俺浅野 翔って言いますっ」
俺の存在に気づいてもらえてたことに興奮してしまい、ついテンションの上がった返信をしてしまった。
でも、普通考えられないだろ?俺の事気づいてたなんてっ
しかし、まだこの清水さんに取って俺は初対面なわけで、少しぎこちなく笑われてしまった。
多少の失敗はいい、問題はこの次だ。
そう思い直すと俺は再びオリジナルと違うことをし始める。
「あの、俺次のバスまで暇なので、もし良ければ途中まで送りましょうか?」
よし、言えた![次のバスまで暇なので]という言葉で、相手に少し罪悪感を持たせ断れない空気を作り、それに加え[途中まで]という言葉で次のバスには間に合う内に別れるとさり気なくつたえる。
俺が今日の授業中必死に考えたこの言葉に穴があるとすれば、ストーカーと間違われないかどうかのだけなはずだ。
彼女は少し迷う様な表情をした後、答えを出した
「じゃあ私、次のバスまで一緒に待ちますよっ!」
そう言って彼女はバス停にあるベンチに座ると、手で彼女の隣をトントンと叩いた。
「え、いや、でも、そしたら清水さんの帰る時間遅くなりません?」
慌てて聞いたがこんな事ノープランだった為、動揺してるのがバレバレだったと思う。
慌てる俺を見ながら彼女は「大丈夫、ハンカチ落とした私のだし、ちょっと前まで合気道やってたから変質者とかきても大丈夫だよっ!」と微笑みながら言ってくれたのだ。
俺は清水さんの言葉に甘えて一緒に待ってもらうことにした。
バスでは静かに話すことしか出来なかったが、今俺達の周りには騒いでも注意してくる人はいない。
そのせいでか、清水さんはいつもバスで話していた時間よりも明るくて、今まで知らなかった彼女の表情が見れて、何だか得をした気分になってしまっていた。