君の未来を愛していこう


「……里央はさ、思わねぇの?」

「えーっ、何をー?」


 ひらり、ひらり。

 躍起になって掴もうとすればすれば、花びらは私の手から逃げていく。

 ただでさえ早咲きな上に、例年よりも開花が早かった桜は、すでにほとんどの花びらを冷たい土の上へと落としていた。

 足元には、薄いピンクの絨毯が広がっている。さっきから私が動き回っているせいで、だいぶ汚れてきてしまっていた。


「だからさ……あれだよ」

「あれ?」

「……未来は、どうなってるんだろうなって。漠然と思うこととか、ねぇの?」


 未だに花びらを追いかけながら、耳を傾けて聞いていた拓人の声。それはやっぱりどこか、不安に怯えて震えているように感じた。


 そこでやっと、私は拓人と正面から向き合った。

 ふわりと吹いている風が、春の匂いを運んでくる。私の黒く長い髪と拓人のさらさらの短髪を、同じ方向へとさらっていく。


 私よりもうんと背が高くて、陸上部での活躍だって目覚ましくて。おまけに頭だっていい拓人。私からすれば、羨ましいほど輝いている存在。

 そんな拓人が今、自信がないような瞳で私と向き合っていた。誰にもわかるはずがない未来に怯えながら、不安定な心でそこに立っている。

 まるで暗く黒い海の真ん中に、頼りない木造船に乗せられてひとり放置されたような。どうしようもないような状況に置かれているみたい。
 さっきの問いかけは、拓人からのSOSなのかもしれない。


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