ボーイズロード ―first season―
小学5年生の調理実習があった日に、俺は風邪を引いて学校を休んだんだ。

その日の夕方、家のインターホンが鳴ったと思ったら、母さんは部屋で寝てる俺を玄関に呼び出した。


パジャマのまま玄関に出ていくと、そこには茜がいたんだ。さすがに俺もちょっとだけびっくりしたけど。


「学校のプリントと、これ少しだけどニーナの分」

そう言いながら、ラップに包まれた小さなパウンドケーキをランドセルから出した。

「茜ちゃん、寒いのにわざわざありがとう。隼も明日は学校に行けそうよ」


ケーキを受け取るとほんのりとうれしくて、思わず顔が緩んでしまった。

いや、笑っちゃだめだ。ごまかさないと。


「……俺、ブスが作ったものなんて食えねえよ」


言ってから、はっとしたがもう遅かった。茜は目を丸くしてからうつむいた。


「隼!なんてこというの!わざわざきてくれたのに。

……ごめんね、茜ちゃん」


「私だけじゃなくて、班の皆で作ったの。だからまずくないから……」

その言葉の終わりはずいぶんか細くて、あまり聞き取ることはできなかった。


当然、その後は母さんにこっぴどく叱られた。

わかってるし、俺だって言いたくて言ったわけじゃねーし。

そうだよ。ほんとは嬉しかったんだ。

< 49 / 406 >

この作品をシェア

pagetop