rain
俯いた貴子の前髪からポタポタと水滴が落ちるのをなんでかな、綺麗だなって見ていた
そういや、貴子と出会ったのも雨の日だったのを思い出した
あれは、5年前
突然降ってきた雨に慌ててコンビニに駆け込んだ俺
初めて任された商談に向かっていた時だった
コンビニの客のほとんどが傘を持ってレジを待っている
一本しかない傘
それを同時に手をかけたのが貴子だった
大きな荷物をかかえ、慌てていた俺を見て貴子は
“傘、どうぞ?”ってすぐに譲ってくれた
申し訳なくて、でも商談の時間が迫っていた俺は
後日、お礼がしたいからと手帳の紙を破き、携帯番号を書いて
何の役にも立たないけどと謝りながらハンカチと一緒に貴子に渡した
“気にしないで下さい、お仕事成功すると良いですね”
そう言って俺に気づかい、優しく笑った貴子に
俺は落ちてしまった
必ず連絡してと貴子に告げ商談に向かった俺だけど
3日経っても、1週間経っても貴子からの連絡はなかった
忘れられなくて、逢いたくて
何度も同じ場所を訪れたけど、貴子に会うことはなかった
それから1ヶ月後、こんな寒い雨の日だった
傘もささず、前から歩いてくる女性
貴子だった
俯いていて泣いてるように見えた貴子
“絶対に離さない”
それだけ惚れてしまっていたんだよ、俺は
ゆっくり貴子に近づくと傘を差し出してこう言ったんだ
“俺があなたの傘になります”