花を愛でる人
第一章
病室のベットの上で横たわる大切な人。細く華奢な腕からはいくつもの管が絡みあうように伸びている。数カ月前まで元気だった顔からは生気すら感じられない。はしゃいでじゃれあった過去が頭の中で何度も再生されては消え、目の前の、まるで現実味のない光景から、私は目を逸らしたくなった。
「は な」
震えるように唇が動いて、かすれた声が、小さく小さく私の名前を呼んだ。けれど私は返事すらできず、彼を見下ろし動けないままスカートの裾をきつく握りしめた。
「いつか また 誰かを 好きに なって恋をして
必ず 幸せに
」
幸せになって欲しい。
愛しい人は、一言、一言を振り絞るように紡いだ。最期の言葉は聞き取ることは出来なかったけれど。
ねえ、悠人。私は頑固で、我儘で、いつもあなたを困らせてばかりいた。照れ臭くて恥ずかしいからって、今まで一度も口に出したことがなかったけど、大好きだった。こんなことなら、ちゃんと伝えておけばよかった。思い出すことは後悔ばかり。ごめん。
恋なんて
幸せになんて、なれない。
ごめん悠人。
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