HEAD/phones~ヘッド・フォン~
『お前は…』
陽助の口から発せられる別の声。
「ようやくこの時が来たか」
女は陽助を見つめニヤリと微笑む。
『お前は…来てはいけない』
「どうしてだ?この時をどれ程待ちわびていた事か。あなたになら分かるだろ?」
女の声は低音と高音が混ざり合って不気味な響きを作り出している。
『俺は…騙されていた』
「ふっ…所詮、貴様も弱い人間だったか」
『…お前は悪魔だ』
「悪魔?それじゃあ貴様は何だ?姿なき貴様は何だと言うんだ?」
『人』
「笑わせるな!肉体がない貴様が人だと言うのか?!」
『お前に、人の心はない』
「人の心だと?…そんなものはいらない!弱い人間の心など邪魔なだけだ!」
『…怖いのか?人が』
「怖い?私が人を怖いだと?」
『お前は、人の存在に怯えている』
「言うな!貴様に何が分かると言うのだ!!」
『お前は、人を妬み、羨み、呪い、そして…憧れている』
「言うな言うな!!私がどれ程の孤独を味わってきたか、貴様に分かるか?誰もいないこの世界で」
『だが…お前は人にはなれない。この世界から出る事は出来ない』
その言葉に女は薄気味悪い含み笑いを返す。
「くっくっく…出来るさ…それがあればな」
女は陽助がはめているヘッドフォンを物欲しげに指差す。その強い眼差しに怖じ気づいたのか、陽助の口からは言葉が出てこない。
女は細い指を陽助に向けたまま言う。
「さぁ、魂の入ったヘッドフォンを…」
『許されない』
陽助から発せられる声は大きくなっていた。
「誰にも私の苦しみは分かるまい。私を置いて逃げた貴様にもな!」
『お前の存在は、許されない』
「許されなくとも私はこの世界から出るんだ!」
『お前の存在を…消す』
「…なんだと?」
女の顔が醜く歪んだ。
「私の存在を消すだと?そんな事が出来るものか!」
『俺が…お前の存在を…消してやる』
「もういい!…これで、すべては終わるのだから」