HEAD/phones~ヘッド・フォン~

女の背中には巨大な黒い翼が広がっていた。それは黒い霧のようで、モヤモヤと宙を漂っている。女はそれを優しくそっと撫でると、陽助目掛けて床を滑るように移動してきた。黒く伸びた霧は影のように後ろに伸びている。
陽助の目の前まで来ると、その霧は翼の形へと戻っていった。
そして、女は言う。

「貴様も、虚無の世界に連れていってやる」

陽助は身動きせず、ただ女の顔を間近で見ている。

女は大きな黒い霧で陽助を包み込もうとした。すると、その霧の中から銀色に光る刃がスルリと出てきた。それはゆっくりと流れるように上に向かっていく。

「貴様!!」

その声と同時に女の右腕がドサッと音を立てて床に落ちる。
一瞬の間をおいて、獣のようなうめき声が部屋中に響いた。

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