HEAD/phones~ヘッド・フォン~

「やめろーーっ!!」

ノブオは陽助に向かって叫んだ。そして、部屋の中に駆け入ろうとしたが、陽助の奥に見た女の姿を見て足が止まる。

「…なんだ…あれは?…陽助?!」

ノブオの後から階段を上がってきた健太郎は愕然とした。

陽助は突然の声に女を抱きしめたままゆっくりと振り向く。その瞬間、陽助の頭にはめられたヘッドフォンがするりと外された。
すると、陽助は魂が抜けたようにその場に倒れてしまった。その後ろから喜びで引きつった顔の女が姿を現す。

「遂に…遂にやったぞ!!」

女は手に入れたヘッドフォンをまじまじと見つめ、狂喜の声を上げている。両目からは再び黒い涙が流れ始め白い顔を黒に染め、背中の黒い霧の翼が大きく広がり部屋中でうねっている。

「なんだよ…あれ…??」

健太郎は呆然と立ち尽くしているノブオに聞く。

「…すげぇ…すげぇよ!神だ!あれが、俺達の創造の神の姿だ!!」

ノブオは興奮のあまり身震いしていた。

「創造の…神?」

健太郎はおぞましい女の姿を見ながら聞き返す。

「そうだ!彼女が本当の世界に連れてってくれるんだ!」

目に涙を浮かべ、ノブオは女の方へゆっくり歩み寄っていく。

「ノブオ!」

健太郎は叫んで止めようとするが、ノブオの耳には届かない。

「これで俺は…あなたの世界に行けるんだよな?」

それを聞いた女は喜びで歪んだ口を微かに開いて答えた。

「バカなやつ」

< 105 / 113 >

この作品をシェア

pagetop