HEAD/phones~ヘッド・フォン~
「えっ?」
ノブオの足は止まった。
「逆だ」
女は冷たく言い放った。
「私が貴様らの世界に行くんだよ!そして…私が今まで味わってきた孤独や絶望や恐怖を…人に与えてやるんだ」
ノブオはその場に固まってしまった。
「…うそ…だろ?」
女はノブオを無視して陽助から奪ったヘッドフォンを二つに分ける。それから自分のヘッドフォンも同じように分けた。その作業を健太郎とノブオはただ呆然と見ているだけだった。
「…やめ…ろ…」
女の足元に倒れている陽助が弱々しくうなるが、女には全く聞こえない様子で二つに分けたヘッドフォンを片方ずつはめ込んだ。
「なんか、ヤバいんじゃないか…?」
健太郎はノブオに言ったが何の反応もない。
女は酔いしれるようにヘッドフォンを見つめると、いつの間にか揃った両手で掴み高々と掲げ、頭にはめようとしている。
健太郎はどうする事も出来ず、ただその異様な光景を見つめていた。
すると、そんな健太郎の横を黒い影が素早く通り抜けて行く。それは前にいるノブオを通り越して女目掛けて突っ込んで行った。
健太郎がその姿を捉えた時には、それは女にタックルを食らわせ、その勢いで窓ガラスを割り、カーテンに包まれながら女もろとも外へ飛び出していた。