HEAD/phones~ヘッド・フォン~

 健太郎と優は周りの落ち葉を集めた。じっとしてろと言ったが、優は痛みを堪え笑みを向けるだけで聞かない。ノブオは座り込んだまま動かなくなっていた。

健太郎は枝木を使って穴を掘り、そこへ優が女を寝かせた。その上から集めた落ち葉を乗せライターで火を放った。
生きているのか死んでいるのか、健太郎には分からなかったが、そうする事がいいように思われた。

炎が暗い世界を赤々と照らす。健太郎はその炎を見つめながら考えていた。

---僕には、つらい日の記憶が未だに色濃く残っている事に、嫌という程気付かされた。もうすっかり本当の自分を取り戻したような気でいたのに。ただ思い出さないように、考えないようにしていただけなんだ。心はあの時のままで、ずっと立ち止まっていたのかもしれない。進んでいるようで、成長しているようで僕は何も変わっていなかった。いや、変わろうともしなかったんだ。でも、今は少し前に出たような気がする。やっと景色が変わり始めた。そんな気がする。この炎を見ていると、僕のあの時の記憶も一緒に消えていくようだ。けど、僕は忘れない。あの日の事も今日の事も忘れない。通ってきた道、見てきたすべての景色が…今の僕の存在の証明だから。

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