HEAD/phones~ヘッド・フォン~

炎の中からパンッという音と共に火の粉が舞い上がった。優はそれを捕まえようと手を伸ばした。

---俺は何にこだわっていたんだろう。何に捕らわれていたんだろう。俺は大勢の人の中で生きている。それは悲しむべき事だろうか?意味もなく嫌悪する事なのだろうか?俺は無知すぎたのかもしれない。考えが幼すぎたのかもしれない。一人で生きていけるとさえ思っていた自分が今はひどくバカに思える。人は人なしではその存在を証明する事は出来ない。俺の周りには俺の存在を証明してくれる人がたくさんいる。それに得るものだって、必要な時だってお互いたくさんある。俺はそんな人達なしで生きていけるか?その答えなら…すでに分かっているはずだ。

炎が音を立てて勢いを増した。その熱を浴びてノブオの体温は徐々に戻りつつあった。

---…終わった。すべて終わってしまった。俺の行くべき道は、もうどこにもない。俺は何を夢見ていたんだ?自分でもよく分からない。あの女に騙されていただけなのか?…いや、違う。俺自身望んでいたんだ。本当に行きたかった。彼女の世界に行きたかったんだ。この世界から抜け出して、新しい世界に飛び込みたかった。その為ならすべてを捨ててでもいいとさえ思った。けれど、それも今となっては叶わない。あの炎でチリチリに燃え尽きてしまった。今の俺に残されているものは何もない。それに俺は人を裏切り傷つけてしまった。俺の居場所は、もうどこにもない。俺は、俺の存在は…消えてなくなるんだ。

「…ノブオ」

不意に優が声をかけた。
ノブオはその声に顔を上げる。

「気にするな」

優が炎を見つめたままそう言うと、ノブオは力なくコクリと頷いた。

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