HEAD/phones~ヘッド・フォン~
「えー、出来事の記名の際の情報の選択、つまり、何が記憶に蓄えられるのかという事は前回も話したように、その人がどれだけ緊張を感じているかというストレスによって変化するわけで…」
何が記憶だよ。何がストレスだよ。
健太郎は話を耳に入れないように漫画に目を向けていた。この講義の時だけは忘れないように家から持参して来ているのだ。
「それでは、今日は記憶のプロセスの次の段階の『保持』に入っていきます。参考書の53ページを開いて…」
聞きたくなくても勝手に入り込んでくるその話に、健太郎はいつもイラついてしまう。耳を塞いでしまえばいいのだが、前の方の席だけにそういうわけにもいかない。健太郎はこの講義を取った事を後悔していた。