HEAD/phones~ヘッド・フォン~
「陽ちゃん、単位足りるのかな?」

健太郎は階段を下りながらノブオに聞いた。

「あいつはどう考えても、ヤバいだろ」

陽助の住む家は大学の裏から出て、少し行った所にある。歩いて4、5分の距離に住んでいながら学校に来ない陽助の心理をあの教授に聞いたら、どんな答えが返ってくるだろうか、健太郎は講義中にそんな事を考えて時間を潰す事もしばしばだった。でも、それはあくまで耳障りな講義の話を遮る為であって、本当はどうでもいい事だった。どうなろうと知った事ではない。そんな冷めた気持ちが自分の中で最近大きくなり出した事に、健太郎自身気付いていなかった。

陽助は下宿でプレハブ小屋のような離れに住んでいた。朝と晩は御飯が出るのだが、それを食べる機会はほとんどなかった。というのも、毎日ノブオに連れ回されているからだ。これでは下宿の意味がない。

部屋の鍵はいつも空いていた。新聞の配達員も、それを承知で家の中に放り込んでいるという。なんと物騒な事だろう。彼には警戒心というものがないのだろうか?

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